用意が整ったところで、さっきの気の弱そうな事務員さんが「どうですか?」と様子を見に来た。
「ああいい所に。丁度これから儀式になるんで、参加出来るスタッフは呼んできてもらっていいですか?」
珍しく余所行きの顔で話す薫先生に、皆は信じられないものを見たとでも言いたげな顔をする。
「し、神事ですか? それってプラスで料金かかりますか?」
「そうですね。後日請求が来るかと思います」
「院長からはあまり予算をかけないように言われてまして……その、当初の予定だったお祓いだけで何とかなりませんか?」
おどおどとそう申し出た事務員さんに薫先生は笑顔のまま答える。
「出来ますけど相手は神様なので、祓った場合とんでもない災いが降り掛かるかと。たとえば作業員が工事中に亡くなって訴えられた場合何百万の損害賠償を払うことになりますよ。数十万の神事で解決する方が安く済むかと思いますけどね」
損害賠償と聞いていっそう顔を青くした事務員さんは何度も額の汗を拭うととても困った顔をして「分かりました」と肩を落として答えた。
「夜勤帯なんで、手の空いたスタッフだけで大丈夫です」
心做しか丸くなった背中がなんだか可哀想だったけれど、"神の災い"を目の当たりにした私たちからすれば絶対に井戸埋立清祓は必要な神事だと言い切れる。