「はい、薫先生! 井戸と神様は何が関係するんですか」

「いい質問。古来より日本では万物に神様が宿るとされてるよね。火や水みたいなとりわけ生活に強く結びつくものには力の強い神様が宿る。井戸はその良い一例だ」

「じゃあ井戸には水神が宿るってことですか?」

「そ。弥都波能売神(みずはのめのかみ)、めちゃめちゃ美人な女神様だよ〜」


美人、と聞いて分かりやすく反応した慶賀くんと泰紀くんに思わず苦笑いをうかべる。


「住んでる家を急に埋め立てられたら、君らでも怒るでしょ? だから、ここを埋め立てることのお許しをもらって、高天原にお帰りになってもらう神事……井戸埋立清祓(いどうめたてきよめばらえ)を執り行うわけね。これ、毎年昇階位試験にでてるから」


最後の一言で慌ててメモを取り始めた二人は「薫先生頭からもう一回!」とヒィヒィ言いながらペンを動かす。


「というわけで、これから井戸埋立清祓をします! まだ習ってない祝詞だから、君らは祓詞だけ奏上したら後は後ろで見学ね」


薫先生が神事をするんだ。

思い返せば薫先生の祝詞を奏上する姿を見たのは、始業式の次の日に蛇神(じゃしん)の祟りを祓いに言った時以来だ。