それは蓋の被せられた直径1メートルのコンクリート出できた丸い円柱で、高さは私のくるぶしくらいまでしかないけれどそれが何か知っている。


「井戸、ですか?」

「そ、大正解。よくわかったね、これが井戸だって。今どきの子供たちは、あんまり実物見た事ないでしょ」

「中学校に同じ形のがあって、先生が危ないから近付くなって」


学校の井戸は急拵えされた感じのトタン板が被せられていた。

昔悪ふざけしていた男の子が中に落ちて死んでしまい、夜な夜な助けを求めて壁によじ登っては落ちて水飛沫が上がる音がする────というのは真偽はさておき学校の七不思議のひとつとして有名だった。


みんなが物珍しそうに井戸をのぞき込む中で、泰紀くんだけが反応が薄い。


「泰紀くんは井戸見たことあるの?」

「んあ? ああ、前に言ったろ俺ん家の神社が山奥にあるって。水周りもそこまで整備されてないから、俺ん家も井戸で水汲んでたんだよな」


確か、電車もバスもないから皆原付の免許を取るって言ってたような。

だとしたら泰紀くんの家はなかなか山の深いところにあるんだろう。


ぶっちゃけ学校の方が快適なんだよなぁ水洗便所だし、と何気なしに言ったその事に返す言葉もない。