部屋の中はお兄ちゃんが暮らしていた頃と何一つ変わらない。

玉じいがこまめに掃除をしてくれていたらしく、帰ってきた時もある程度は覚悟していたほこりっぽさがなかった。


唯一変わったことと言えば────。


ソファーの上にカバンを置いて、そのままリビングの窓とは反対側の壁に歩みよる。

そして胸の前で二度、柏手を打った。


「────()神床(かむどこ)(まし)ます ()けまくも(かしこ)天照大御神(あまてらすおおみかみ) 産土大神等(うぶすなのおおかみたち)大前(おおまえ)(おろが)み奉りて 恐み恐みも白さく 大神等(おおかみたち)(ひろ)き厚き御恵(みめぐ)みを (かたじけな)み奉り……」



今までは気にしたことも無かったリビングに飾られた神棚に、手を合わせるようになった。

それと同時に「神棚拝詞」を奏上すれば、いっそう部屋の中の居心地の良さがぐんと増す気がした。


「……高き尊き神教(おしえ)のまにまに 直き正しき眞心(まごころ)もちて 誠の道に(たが)ふことなく 負ひ持つ(わざ)(はげ)ましめ給ひ 家門高(いえかどたか)く 身健(みすこやか)に 世のため人のために(つく)さしめ給へと 恐み恐みも白す────」


神棚の開け放たれた扉の奥から、暖かい風が吹いた気がした。