あ、と言葉に詰まると、泰紀くんはいっそう不安げな顔をする。
「だ、大丈夫だよ。お兄ちゃんは、元気だし」
「お兄ちゃん"は"?」
そう聞き返されてまた言葉につまる。
一学期の時もふとした時に感じていたけれど、泰紀くんはよく周りを見ている人だ。
喧嘩っ早くほかの人たちからは「三馬鹿」と揶揄されることが多いけれど、思い返せば最終的に諌めるのは嘉正くんでも三人の中でも一歩引いたところから見ていることが多い。
恵理ちゃんから怪奇現象の話を聞いた時も不安がっていた彼女に誰よりも早く安心させる言葉をかけていた。
些細な感情の変化を機敏に感じ取って誰よりも早く声をかけれる人だ。
「ほんとに、大丈夫だよ」
「俺の父ちゃんもいっつも"大丈夫"って言うんだよな。でもさ、それって大丈夫か大丈夫じゃないか聞いてるんじゃない。"今辛いか辛くないか"なんだぞ」
その言葉に目を見開いた。
「鋭いなぁ……泰紀くん」
「そうか? 昨日も電話で恵理に"この鈍感ニブチン筋肉馬鹿"って言われたぞ」
ちょっと泣きそうだったのに、恵理ちゃんのおかげで震えた声が止まる。
ふふ、と小さく笑ってゆっくり歩き出す。泰紀くんは気遣うように私に歩調を合わせた。
「……夏休みが終わったらね、神修を辞めるの」
「は……?」