けれど私がそれに触れたら、きっとお兄ちゃんはまたすごく困った顔をして「俺は大丈夫だから」って言うんだろう。
そんな事が聞きたいわけじゃないのに、本音はきっと私には見せずに我慢して笑うんだ。
ひとつため息をこぼた。
出しっぱなしの服を畳んで、タンスの引き出しを開けると見慣れた浅葱色の布が出てきて目を見開いた。
引っ張り出すと神職の浅葱袴で、家の洗剤とおなじ匂いがした。
間違いなくお兄ちゃんのものだ。
でもおかしい、お兄ちゃんは初等部を卒業したあとは中等部には上がらずに地元の中学校へ進学したと聞いている。
神修の高等部を卒業してやっと「正階三級」の階位が取れる。浅葱色の袴だ。
もしかしてお兄ちゃんは、独学で昇階位試験に合格して三級を取ったんだろうか。
家のことも私の面倒も自分の勉強もしながら────お母さんたちの遺言と私のことを守るために……?
袴をぎゅっと握りしめる。
「むちゃくちゃだよ……」
六歳の小さな体でどれだけ大きな決意をしたんだろう。
どれだけのものを背負ってきたのか、私には計り知れなかった。