「また様子を見に来るから、その時に稽古をつけてあげよう」

「わっ、嬉しいです……!」


禄輪さんはひとつ頷くと「行ってくる」と目を弓なりにした。


禄輪さんを見送った後、食器の片付けをして私も玉じいに別れを告げた。

アパートの外階段を登って自分の部屋に帰ってくる。


玄関の床を踏んだその瞬間、透き通る水の中に足を入れるようにひんやりとした感覚がした。

家の中は、朝の社頭のように澄んだ空気で溢れている。


後ろ手でドアを閉めて、くるりと振り返る。ドアスコープの上に貼った厄除けの御札は、禄輪さんが用意してくれたものだ。


「異常なし、と」


シワひとつない御札に手を合わせると、靴を脱いで中に上がった。