お兄ちゃんの退院が迫ってきて埃っぽくなったお兄ちゃんの部屋を綺麗に片付けた。

私には「部屋を片付けろ」とか「洗濯物はすぐに出しなさい」とかしつこく言うくせに、自分の部屋はものでごちゃごちゃしていて、読みかけの本が床に積んであったりする。


やれやれと肩を竦めながら、床に落ちている靴下を拾い上げた。

入るな、とは言われたことがないけれどこうしてゆっくりとお兄ちゃんの部屋の中を覗いたのはうんと久しぶりな気がする。

本棚には小難しい小説や新書が並んでいて、昔からお兄ちゃんは勉強が得意だったなと思い出す。


それなのに……私のために大学には進学しなかった。進学校で内部推薦の話もあった。学費のかからない国公立も手堅いだろうと言われていたらしいけれど、高校を卒業するとそのまま一般企業に就職した。

親しい友達が皆大学へ進学する中での就職、お兄ちゃんからは「大学に行ってまで勉強したいことがないから」と聞いて「勿体ないなぁ」とぼんやり思っていたけれど、今ならその言葉が本音じゃないのがよく分かる。