ちらちらと私の様子を伺うお兄ちゃんがおかしくてプッと吹き出した。
「何言ってるの、お兄ちゃんらしくないよ。いつものお兄ちゃんなら『もっと早く来て』とか『もう帰るの?明日は何時に来る?』って言ってるよ」
「でも」
「それに、私はお兄ちゃんが心配で会いに来てるんだから毎日来るのは当たり前でしょ?」
少しだけ安心したような顔をしたお兄ちゃんは「そっか」と目を細めた。
「じゃあ朝から晩までいて欲しいな〜」
「もー、調子に乗らない」
べっと舌を出しておどけた顔をしたお兄ちゃんは肩を竦めた。
もう、と息を吐くともう一度トートバッグを肩にかけ直す。
「じゃあ、ほんとに帰るね。また明日」
「あ、待って巫寿」
お兄ちゃんが手をさし伸ばした。
直ぐに何を言おうとしているのかが分かって、ひとつ頷くとベッドサイドに腰かけた。
お兄ちゃんは私の両頬に手を添えると、そっと額を合わせた。
「────巫寿が危ない目に会いませんように。巫寿が怖いものを見ませんように。巫寿が楽しい一日を過ごせますように」
紡がれる言葉は優しい温もりを帯びて私の体を包み込む。