その両肩を強く揺する。

ハッと息を飲む声がして、お兄ちゃんは目を見開いた。


少し混乱しているのか視線をさ迷わせ、私と目が会った瞬間顔をくしゃりと歪めた。

私が握っていない方の手を顔の上に乗せて、すん、と鼻をすする。



「ごめんごめん、大丈夫だよ。ちょっとでかいゴキブリに追われる夢見ただけ」

「お兄ちゃん……」

「そんな顔するな。可愛い顔が台無しだぞ」


お兄ちゃんは隠した腕で強く目を擦るとパッと手を離した。

いつもみたいに「俺は大丈夫だよ」と笑うけれど、赤くなった目は誤魔化せていなかった。


未だにお兄ちゃんが倒れたあの日、魑魅(すだま)に襲われたあの瞬間を夢に見る。

身体中を掻き回す不快な感覚、私の喉を握り潰そうとする腕、肌に突き刺さる殺意。


飛び起きた時には全身汗でびっしょり濡れていて、全力疾走したあとみたいに心臓はバクバクとうるさかった。

生まれて初めて死ぬかと思った経験は、どんなに月日が流れようと脳裏に色濃く刻まれている。