夕飯を食べ終え少し談笑すると、禄輪さんは「そろそろ帰るよ」と立ち上がった。
残してきた仕事がまだ沢山あるらしい。
「補習があるだろうからあと一週間程度しかここにおれんと思うが、くれぐれも用心して過ごしなさい。何かあったら直ぐに知らせるんだよ」
玄関で靴を履きながら禄輪さんは念を押す。
さっきからこればっかりだ。
分かってます、と苦笑いで頷けば疑うようにじろりと私を見る。
「逢魔ヶ刻の前には帰宅すること、私が渡した札に破損がないか毎日確認すること、異変があれば直ぐに連絡すること、特に男と二人では遊ばないこと」
「禄輪さん、祝寿お兄ちゃんみたい」
禄輪さんはため息をついて私のおでこを人差し指で弾いた。
「本当にわかってるのか?」
「分かってます。ちゃんと気をつけます。それに眞奉もいるし」
その言葉に応じるように、頭の中に「ええ」と女の人の声が響く。
禄輪さんにも聞こえたのか、そこでやっとドアに手をかけた。