車の時間を逃してしまってその日はアパートに帰った。
薫先生に電話をかけると既に禄輪さんから事情を聞いていたらしく第一声は「大変だったねぇ」だった。
『とりあえず寮監には伝えとくよ。あと三馬鹿たちにも。巫寿が遅いって騒いでたから』
「ありがとうございます」
『はいはーい。ちょっと待ってよ。えっとー……明日は9時にひらまの社から車が出るって。場所わかる? まあゆいもりからそんなに遠くないし聞けば分かるよ。そっから乗れば3時間目には間に合うと思うから。迎門の面はある?』
「あの、薫先生」
『ん?』
言葉に詰まる私を、薫先生は黙って待ってくれる。
「迎門の面は……あるんですけど。私、学校に戻れません」
そう声に出せば喉の奥がカッと熱くなって苦かった。
「お兄ちゃんが、もう戻るなって。二学期が始まる前に退校手続きするって」
涙がポロポロとこぼれて、スマホをきつく耳に押し当てた。
このまま神修から去って、皆とも先生とも会えなくなってしまうんだろうか。
でももう私じゃ、どうすることも出来ない。
『巫寿はどうしたいの?』
「私……?」
『そう。神修は学びを得るも得ないも学生の自由だってずっと言ってるでしょ。巫寿はどうしたい?』
「でも、お兄ちゃんが」
『それは祝寿の考えであって、巫寿の考えじゃないはずだよ』