その後禄輪さんは「暗くなる前に帰りなさい」と言って急いで帰って行った。まだ残した仕事があるらしい。
重い気持ちで病室に戻ると、お兄ちゃんはベッドに腰かけて窓の外を見ていた。
「……お兄ちゃん」
「ん……」
お兄ちゃんは振り向かずにじっと夕日を見つめている。
パイプ椅子を引き寄せて座ると、お兄ちゃんは深く息を吐いた。
「全部禄輪さんから聞いた。思えば俺が目が覚めた時に、十年も行方不明だった人がいる時点でおかしいって気付くべきだったんだ」
何て返せばいいのか分からず膝に視線を落とした。
「────もうあの学校には行くな」
「……え? 今、何て」
「1週間後には退院出来るから、その後退校手続きをするよ」
「お兄ちゃん……っ」
「それで別の高校の編入試験を受けなさい。巫寿は賢いから中学の時に第一志望だったところ、受けてみようか。二学期には少し遅れるかもしれないけど」
「お兄ちゃん!」
かたん、と勢いよく立ち上がれば、お兄ちゃんはゆっくりと振り返った。
「何のために、今まで全部隠してきたと思う?」
「何のためって……」
「母さん達が死んだ理由も、俺たちが持ってる力も、あの界隈のことも。全部何で隠してきたと思ってるんだよッ!」