「玉じいが、日本神社本庁の本部長……!」
驚きのあまり、からんと手のひらからお箸が滑り落ちた。
「"元"だがな。巫寿、行儀悪いぞ」
指摘されて慌てて箸を拾い上げた。
それでもまだ落ち着かなくて、はあと間抜けな声を上げる。
日本神社本庁は、全国各地にいる言霊の力を持つ神職を統括する組織だ。
全ての神職は本庁に加盟しており、私も神修へ進学するのと同時に加盟した。
その本部長と言えば、全神職のトップに君臨する人ということになる。
まさかこんな身近に神職が、しかも本庁の元トップがいたなんて信じられない。
「あっ、もしかして私が帰ってきた時に何も聞かなかったのって、全部知ってたからなの……?」
「ああ。ある程度は禄輪から話を聞いていたからな」
なんともない顔で白菜を咀嚼する玉じいに、肺の空気を全て吐き出す勢いでため息をついた。
だから帰ってきた時、あんなにもあっさりした反応だったんだ。
ろくな説明もないまま神修へ進学して、長い間連絡も出来ないままでいた。
帰りの車の中で、玉じいになんて説明すればいいんだろうと頭を抱えていたけれど、玉じいは帰ってきた私を問いただすことも無く、いつも通り「おかえり」と迎え入れてくれた。