「ぼ、冒険者から……?」
思いがけない話だった。
冒険者たちから武器錬成の依頼が届いている?
どうして町にいる冒険者たちから依頼を持ちかけられているのだろう?
「町を巡回する守衛騎士の武器を見て、冒険者が興味を持ち始めたんだ」
「守衛騎士の……? ってことは、私が作った『黒石の直剣』ですか?」
「そう。で、それを作ってるのは宮廷錬成師のところで手伝いをしてる見習い錬成師だってことを話したら、依頼をしたいって冒険者がたくさん出てきてね」
すでに守衛師団の大部分が私の作った剣を装備している。
だから町にいる冒険者たちの目に触れる機会も当然あり、それで剣に興味を持った人たちが依頼を出してきたってことか。
確かに私が作る武器は、強力な性質が複数も付与されていて、安定性よりも爆発力が目立っている。
そういう尖った武器って、冒険者たちが好きそうだもんなぁ。
「宮廷錬成師は宮廷に雇われてるから、他所向けの依頼を受けることは禁じられてる。でもそこのお手伝いちゃんなら問題ないってことで一応持ち帰ってきたんだ。ショコラちゃんも錬成師として名前を売るチャンスだと思ったし」
「な、なるほど」
そっか、私は宮廷に雇われているわけじゃなくて、あくまでただの手伝いだ。
だから別に他所からの依頼を引き受けても文句を言われることはない。
工房長のクリムがダメと言えば引き受けることはできないけれど、別に引き止めようとしてくる気配もない。
「もちろん引き受けるかどうかはショコラちゃん自身が自由に決めていいからね。今受け持ってる仕事に集中したいんだったら全然断ってもいいし」
そう言われて、私は思わず顔をしかめて考え込む。
確かにムースさんの言う通り、これは錬成師として名前を売る絶好の機会だ。
これで私の武器が冒険者たちの手に渡り、それで活躍をしてくれたのなら、一気に錬成師ショコラの名前が世に知れ渡ることになる。
ただ、今の仕事に集中したいというのも本当のところだ。
正直、掛け持ちをしてどちらかが疎かになってしまわないか心配である。
せっかく騎士団の人たちに認めてもらえてきているのに、ここで大きな失敗とかはしたくない。
と、不安に思っていると……
「いい機会だから引き受けてみなよ」
「クリム……」
「もしそっちの依頼が忙しくなって、騎士団の方の仕事に手が回らなくなってきたら、その時は僕がフォローするし」
思わぬ助け舟を出されて、私は驚いて放心してしまった。
クリムがフォローしてくれるのはすごくありがたいけれど、工房長にそんなことをしてもらっていいのだろうか?
あくまで手伝いは私の方なのに。
「もしかしたらこれをきっかけに、錬成師ギルドで広まってる悪い噂も解消できるかもしれないし。いつまでも悪評が流れてるのも気分が悪いだろ。僕だって自分のところの手伝いが破門を受けた落第生なんて言われ続けるのは嫌だし、アトリエの評判に関わるかもしれないから」
「ま、まあ、それもそっか」
正直クリムはアトリエの評判なんて気にしていないだろうけど、耳障りな評判は取り除いておくに越したことはない。
だから手を貸してくれるということか。
これ以上心強い味方は他にいないし、クリムがせっかくこう言ってくれているのだから……
「わかりました。冒険者からの依頼、引き受けてみます」
「それじゃあ、城門のとこの守衛室に行ってみなよ。そこに依頼が届いてるって話だからさ」
というわけで私は、騎士団の武器錬成に続いて、今度は冒険者たちの武器も錬成することになった。