「あれが……」
このカボス山にて多数の被害者を出している魔物――『岩人』。
別名『弾け岩』。
真っ黒な岩をいくつも重ねて作ったような人型の魔物で、成人男性を上回る大きさをしている。
その巨体から繰り出される重たい一撃は言わずもがな、体が頑丈なことでも知られている。
それだけでも厄介だというのに、絶命時には爆発まで起こして攻撃をしてくるそうだ。
ゆえに『弾け岩』。
その岩人が前方から五体も迫って来て、私たちは会話を中断して身構えた。
「ショコラ、来る前に話したこと覚えてるな」
「うん、大丈夫」
「じゃあ、まずは僕が手本を見せるよ」
クリムはそう言うと、私の代わりに前に出てくれた。
岩人の体を構成している岩からいい鉱石が採れるので、それを集めて武器素材にするらしい。
だから岩人を討伐して鉱石を落とさせるらしいけど……
『えっ、倒したら爆発しちゃうんだよね? それじゃあ貴重な鉱石とか割れちゃうんじゃ……』
ここに来るまでに岩人のことを聞いた私は、それが気になって思わず尋ねた。
倒さなきゃ鉱石を採取できない、でも倒したら爆発して鉱石が砕けるんじゃないかと。
『鉱石自体はかなり頑丈だけど、弾け岩の爆発が強力で鉱石が欠ける可能性は確かにある。そうなれば使い物にならなくなるから……』
クリムはその時教えてくれた対処法を実践するように、腰に携えていた“長剣”に手を掛けた。
鞘から引き抜くと、青白い輝きを放つ美しい刀身が姿を見せる。
その長剣を逆手持ちにすると、力強く山道の地面に突き立てた。
瞬間、突き立った刃先から“氷”が迸り、岩人たちの足元を一瞬にして凍りつかせてしまう。
氷を発生させて相手を凍結させる長剣。間違いなく錬成術によって生み出された錬成武器だ。
クリムは五体の岩人の動きを止めた後、岩人の一体に狙いを定めて剣を振りかぶる。
まずは胸元を斬りつけて全身を凍結させて、次に唯一脆いとされている首と胴体の接合部に剣を振り抜いた。
岩人の首が宙を舞い、同時に本体が氷の中で消滅する。
噂のような爆発は起こさず、何事もなく討伐することができた。
今みたいに凍結させたり水で濡らすことができれば、岩人は爆発しないとのこと。
だから雨の日とかは討伐と採取が楽だけど、こうして武器や魔法を使っても爆発を抑えることができるそうだ。
「次は私が……」
そう言うと、クリムは頷いて後ろに下がってくれた。
直後、他の四体の岩人が足元の氷を壊して再び動き出す。
私一人で倒せるようにならなきゃ、武器錬成なんて任せてもらえない。
素材採取も一人でできるようにならなければいけないので、私はそれを証明するために気合いを入れる。
「無理して一度に全員を相手することはないから。一体ずつ誘い出して確実に……」
と、助言をしてくれるが、私の体はそれを聞くより先に動いていた。
「【渦巻く水流――不快な穢れを――洗い流せ】――【水流】」
構えた右手の平に、青色の魔法陣が展開される。
直後、そこから大量の水が吹き出し、岩人たちの体に浴びせられた。
四体の岩人は大雨にさらされたかのように全身を濡らす。
それに対して怒り狂ったように勢いを増して迫って来るけど、これで爆発はしない。
そうとわかるや、私は続け様に魔法を放った。
「【濁りなき純水――汚れを知る者たちを――刃となって断罪せよ】――【水刃】」
瞬間、私の足元に魔法陣が展開されて、そこから四本の水の剣が飛び出した。
私の前後左右から現れた水の剣は、ひとりでに宙を舞って眼前の岩人たちの方へと飛翔する。
奴らはそれを叩き落とすように岩の腕を振り上げるが、神速の一振りにより腕が斬り落とされた。
これは、私の意思で操ることができる水の剣。
それを四本顕現させて攻撃を行うことができるこの魔法の名前を、【水刃】と言う。
斬れ味と剣速は使用者の魔力によって左右されるが、どうやら私の魔力でも充分に岩人の体を切断できるようだ。
「任せたよ、剣たち」
四本の水の剣は迅速に岩人たちの体を斬り刻んでいき、ほんの数瞬で戦いは終わった。
バラバラにされた岩人たちは、灰となって風に攫われて行き、消滅する。
後に残されたのは、奴らの体を構成していた岩の一部だけだった。
「これで、いいんだよね?」
「……」
振り返りながらクリムに問いかけると、彼は口をぽかんと開けながら固まっていた。