十五歳になり、優子の外見は可愛らしく成長したが中身は何一つ成長していなかった。白威も同様だ。外見は美しい成長を遂げたが、中身が変わることはなかった。
しかし、村人は変わった。
以前は優子が村を歩けば、子どもに悪戯をされ、大人に陰口を言われていた。それが今やどうだ。
「お前のせいで畑が駄目になったんだ!」
「屋根が落ちて、家の中が川のようになった!お前のせいだ!」
子どもだけでなく、大人からの風当たりが強くなった。
白蛇様の物に傷をつけてはならないと、優子に手を出すことはしなかった大人まで、石を投げつける有様だ。
子どもが投げつける石は、手が小さいため小さい石であったが、大人はもっと大きな石を投げることができる。
顔に当たらないよう、両手で庇いながら避ける。
神社へ行く道中、帰り道、村人は優子を見かける度に罵倒し、傷をつけようと働く。
「お前のせいだ!」
女たちは必死に石を投げつける。
後ろにいた一人の男は、鍬を持ってずんずんと優子の元へやってくる。
男の力で鍬を向けられるとどうなるか。
擦り傷では済まない。
優子は真っ青になりながらその場を走って逃げだす。
「待て!」
男は短い足で優子を追う。
クソ、クソ、クソ。
あいつ等全員覚えたからな。誰が、どんなことを自分にしたか、すべて覚えているからな。
ぎりっと歯を食いしばりながら男の声が聞こえなくなる所まで逃げた。
昨日まで、この村は豪雨の被害に遭っていた。
何日も降り続ける雨は畑を水浸しにし、古くなった屋根を地面に落として村人を困らせた。他人の家に非難する者や、畑を守ろうと家を出て大けがを負った者もいる。
その豪雨は、優子のせいであると村人は信じて疑わなかった。
優子の日頃の行いに白蛇様は怒ったのだと口々に言った。
そんなわけないだろう、ただの偶然だ。と、優子は跳ねのけたがその態度もまた村人を刺激した。
その豪雨の前は、逆に雨が降らなかった。作物は育たず、枯れ果てた。飲み水が足りず、脱水で苦しむ者がほとんどだった。これも、優子の態度が悪いからだと村人は憤慨した。
すべて優子が悪者になっていた。
黒髪で不吉だから。優子の態度が悪いから白蛇様が怒っているのだ。痛い目に遭わなければ態度を改めないのか。
毎日のようにそんな言葉を聞いた。
優子とて、好きで白蛇の嫁に行くのではない。両親のためであったが、それが結局村の為になるのだ。感謝こそすれ、罵倒される覚えはない。
「あいつ等全員死ねばいいのに」
優子は夢の中で、白威に言い放った。
もしかしたら、このままだと両親も傷つけられるのではないか。
お前たちの躾が悪いからだ、と村人は両親にまで手を出そうとするのではないか。
そんなことが起きれば、優子は手段を選ばないつもりだ。
両親のために嫁に行くのだ。その両親が最悪の場合村人に殺されたなら、優子は嫁にいく理由はなくなる。もしも、もしも両親が殺されたなら、村人を一人残らず殺してまわろうと思っている。
「…村人、嫌い?」
「嫌いよ、当然でしょう」
「…」
「何よ。もしかしてそんなこと言うな、って思ってんの?仲良くしろって?ハッ、馬鹿馬鹿しい」
蔑んだ目を向けられ、白威は口を開く。
「…違う」
「あんた村人に会ったことないでしょ。私が今までどんな扱いを受けてきたか、知らないでしょ」
「優子が嫌いなら、僕も嫌い」
予想の斜め上の発言だった。
まさか擁護されるとは思っていなかった。
優子に友達はいないが、友達とはこういうものだろうか。
「村人、死んだ方がいい?」
「両親以外は死んでもいいわ。私を傷つけようとする奴等だし、存在価値なんてないし」
「…優子、悪い子」
「はぁ!?どっちがよ!あいつ等の方が百万倍悪いわ!ふんっ、もし私が白蛇に嫁いだら村人を全員殺すようにお願いしようかしら」
「…悪い子」
「あんた私の味方じゃないわけ!?」
悪い子、と白威は言うけれど、その表情は優子を責めていない。
覇気のない「悪い子」を聞き、優子はため息を吐いた。
いつも優子が揶揄っているのでその仕返しなのだろう。どうでもいい、と白威の顔が物語っている。
「あの村で生まれた以上、白蛇との結婚は避けられないから運命として受け入れるわ、両親のためにね。でも、両親に火の粉が降りかかるなら話は別よ。私は、村人のために嫁ごうだなんて微塵も思っていないわ」
「…うん」
「白蛇に言っておきなさい。万が一、父と母がこの世を去れば私はあんたに嫁ぐ気はないってね」
「分かった」
「…そういう返事をするってことは、やっぱりあんた使者ね?」
真剣な表情で聞いていた白威だったが、優子に指摘されて失言に気付く。
慌てて口を閉ざしたが、優子はにんまりと笑った。
白威は白蛇と何かしらの関わりがある。白蛇への伝言を請け負うことができるくらいには近しい関係なのだろう。
使者の線が濃い。
しかし、村人は変わった。
以前は優子が村を歩けば、子どもに悪戯をされ、大人に陰口を言われていた。それが今やどうだ。
「お前のせいで畑が駄目になったんだ!」
「屋根が落ちて、家の中が川のようになった!お前のせいだ!」
子どもだけでなく、大人からの風当たりが強くなった。
白蛇様の物に傷をつけてはならないと、優子に手を出すことはしなかった大人まで、石を投げつける有様だ。
子どもが投げつける石は、手が小さいため小さい石であったが、大人はもっと大きな石を投げることができる。
顔に当たらないよう、両手で庇いながら避ける。
神社へ行く道中、帰り道、村人は優子を見かける度に罵倒し、傷をつけようと働く。
「お前のせいだ!」
女たちは必死に石を投げつける。
後ろにいた一人の男は、鍬を持ってずんずんと優子の元へやってくる。
男の力で鍬を向けられるとどうなるか。
擦り傷では済まない。
優子は真っ青になりながらその場を走って逃げだす。
「待て!」
男は短い足で優子を追う。
クソ、クソ、クソ。
あいつ等全員覚えたからな。誰が、どんなことを自分にしたか、すべて覚えているからな。
ぎりっと歯を食いしばりながら男の声が聞こえなくなる所まで逃げた。
昨日まで、この村は豪雨の被害に遭っていた。
何日も降り続ける雨は畑を水浸しにし、古くなった屋根を地面に落として村人を困らせた。他人の家に非難する者や、畑を守ろうと家を出て大けがを負った者もいる。
その豪雨は、優子のせいであると村人は信じて疑わなかった。
優子の日頃の行いに白蛇様は怒ったのだと口々に言った。
そんなわけないだろう、ただの偶然だ。と、優子は跳ねのけたがその態度もまた村人を刺激した。
その豪雨の前は、逆に雨が降らなかった。作物は育たず、枯れ果てた。飲み水が足りず、脱水で苦しむ者がほとんどだった。これも、優子の態度が悪いからだと村人は憤慨した。
すべて優子が悪者になっていた。
黒髪で不吉だから。優子の態度が悪いから白蛇様が怒っているのだ。痛い目に遭わなければ態度を改めないのか。
毎日のようにそんな言葉を聞いた。
優子とて、好きで白蛇の嫁に行くのではない。両親のためであったが、それが結局村の為になるのだ。感謝こそすれ、罵倒される覚えはない。
「あいつ等全員死ねばいいのに」
優子は夢の中で、白威に言い放った。
もしかしたら、このままだと両親も傷つけられるのではないか。
お前たちの躾が悪いからだ、と村人は両親にまで手を出そうとするのではないか。
そんなことが起きれば、優子は手段を選ばないつもりだ。
両親のために嫁に行くのだ。その両親が最悪の場合村人に殺されたなら、優子は嫁にいく理由はなくなる。もしも、もしも両親が殺されたなら、村人を一人残らず殺してまわろうと思っている。
「…村人、嫌い?」
「嫌いよ、当然でしょう」
「…」
「何よ。もしかしてそんなこと言うな、って思ってんの?仲良くしろって?ハッ、馬鹿馬鹿しい」
蔑んだ目を向けられ、白威は口を開く。
「…違う」
「あんた村人に会ったことないでしょ。私が今までどんな扱いを受けてきたか、知らないでしょ」
「優子が嫌いなら、僕も嫌い」
予想の斜め上の発言だった。
まさか擁護されるとは思っていなかった。
優子に友達はいないが、友達とはこういうものだろうか。
「村人、死んだ方がいい?」
「両親以外は死んでもいいわ。私を傷つけようとする奴等だし、存在価値なんてないし」
「…優子、悪い子」
「はぁ!?どっちがよ!あいつ等の方が百万倍悪いわ!ふんっ、もし私が白蛇に嫁いだら村人を全員殺すようにお願いしようかしら」
「…悪い子」
「あんた私の味方じゃないわけ!?」
悪い子、と白威は言うけれど、その表情は優子を責めていない。
覇気のない「悪い子」を聞き、優子はため息を吐いた。
いつも優子が揶揄っているのでその仕返しなのだろう。どうでもいい、と白威の顔が物語っている。
「あの村で生まれた以上、白蛇との結婚は避けられないから運命として受け入れるわ、両親のためにね。でも、両親に火の粉が降りかかるなら話は別よ。私は、村人のために嫁ごうだなんて微塵も思っていないわ」
「…うん」
「白蛇に言っておきなさい。万が一、父と母がこの世を去れば私はあんたに嫁ぐ気はないってね」
「分かった」
「…そういう返事をするってことは、やっぱりあんた使者ね?」
真剣な表情で聞いていた白威だったが、優子に指摘されて失言に気付く。
慌てて口を閉ざしたが、優子はにんまりと笑った。
白威は白蛇と何かしらの関わりがある。白蛇への伝言を請け負うことができるくらいには近しい関係なのだろう。
使者の線が濃い。