とある村に白水神社という、白蛇を祀った神社があった。
 千年前、厄災に困り果てた村人たちが白蛇を祀ったところ、洪水も土砂崩れもなく村に平和がもたらされたという。
 しかし、その平和は長くは続かなかった。
 不吉とされる黒を頭髪に持つ女が生まれると、再び厄災が起きた。村は荒廃し、飢餓に苦しみ、死が目前に迫っている中、藁にもすがる思いで村人は黒髪の少女を白水神社に生きたまま捧げた。少女が逃げ出さぬよう、御札を外側に貼った。
 すると厄災は過ぎ去り、村は元通りとなったが、少女は神社から忽然と姿を消した。
 逃げ出さぬよう御札まで貼り付けたというのに、神社の中は蛻の殻だった。
 その後も、村に何度か黒髪の少女が誕生して村人は確信した。
 忌み嫌われる黒髪を持つ少女が生まれ、歳が十八になったなら白水神社に捧げなければならない。さもなければ厄災が起きるのだと。

 白蛇様は黒髪の少女をお気に召す。
黒髪の少女が現れたなら白蛇様に捧げなさい。
そうすれば白蛇様は村を守ってくれるだろう。

 烏が鳴き喚く夜。
 白水村のとある家で、女は大きな腹を上にして顔を歪ませていた。
 妻の手を握る夫は「頑張れ、頑張れ」と泣きそうになりながら語りかけていた。
 女は無我夢中で、腹の中にいる我が子を外に出そうと力む。
 どのくらいそうしていたか分からないが、オギャーと声が聞こえ、腹と股の違和感がなくなったことから生まれたのだと悟った。
 母親が子どもの顔を見ると、その毛量から髪の色が目に入った。
 烏のように、薄気味悪い黒。
 黒髪が、我が子として誕生した。

 母親が子どもを抱いていると、外から烏の鳴き声が響いてきた。
 子どもは泣き、烏は鳴く。
 稀にみる不吉な夜だった。