走って走って家に帰ってる間になんとなく体の熱が冷めていくのを感じていた。
学校から離れればはなれるほど、体力が尽きれば尽きるほど思考は冷静になっていく。
やっぱり拡散はまずいんじゃないか。
私にも非はあるし、第一私が椅子をひっくり返しているのがバレたら悪者は私になってしまう。
まあ脅しにはちょうどいいんじゃないか。
これからあの居残り勉強もなくなるかもしれない。
自分の部屋につく頃にはさらしてやろうという気は一切なくなっていて
逆に明日気まずいなとか、あれは林が悪いじゃんといたって冷静に考えられるようになっていた。
言いたいことを吐き出して思いっきり物にあたったのが功を奏したのかもしれない。
それでもやっぱりどこか腑に落ちなくてアプリを開く。

≪クラスの子にぼろくそに言われた ほんとに病む もうしんどい≫

なんの躊躇いもなくそう打ち込んだ。

>どうしたの?話聞こうか

一番に反応したのは破滅ちゃんだった。

>クラスの子が私の言ってることは甘えだって、めっちゃ強く言われた

いつも通り話を盛って打ち込む。
もう私の中で話を盛るというのは当たり前化していて、そうじゃないと誰も反応してくれないと思っていた。
話を盛って面白くして、よりかわいそうにならないとネットの世界では誰も見つけてくれない。
そういう世界なのだ。ネットとは。

いつもならすぐに返事をくれる破滅ちゃんだが今回は少し間が開いて、
>ちょっと通話しない?
そんな予想外な返信が返ってきた。
正直通話はめんどくさい。
でもせっかく私に注目してくれてるのに。
これを断ったら私は私の欲求を満たす道具を1つ失ってしまうかもしれない。
天の川のアカウントはフォロワーがそこまで多くないため、あまり雑に扱いたくはなかった。

>いいよ しよ

そう簡単に返すと早速通話ができるアプリのURLと破滅ちゃんのユーザーIDが送られてきた。
それらを全て登録しあとは通話をするだけ。
ちょっと緊張する。
はじめてネットの人とする通話。
破滅ちゃんはどんな声なんだろう。
本当に女の子なのかはこれでわかる。
>かけるね~
という破滅ちゃんに簡単にOKと返信をしたとたん画面に着信の通知が来た。

イヤホンをして応答ボタンを押す。
お互い少し無言で探り合いをしたのち、小さなかわいらしい咳払いが聞こえてきた。
[もしもし?]
恐る恐る口を開く。
[あ、もしもし?聞こえます?]
可愛くてすこしささやき気味の声。1個下にしてはかなり幼い声に聞こえた。
[聞こえてますよ 始まして]
[わー!天の川ちゃんだ~声可愛い!]
破滅ちゃんは嬉しそうにテンションを上げていた。
声がかわいいなんて言われたことないからすごく嬉しい。
[それで、学校で何があったの?]
その一言から私は今日あったことをかなり端折って説明した。
4割嘘か盛った話。
それは天の川ちゃんが悪いよと言われそうなことは排除するか、思ってないけど「ほんとはダメってわかってたんだけど」「どうしてもそれだけは心につっかえちゃって」「トラウマもあったからつい」という風にあたかもしょうがなく感マシマシで話した。
破滅ちゃんはずっと私の言うことに「うん うん」と聞いてくれた。
そしてひとしきり話し終わってわざと自虐的に笑った後、破滅ちゃんの反応を待った。
「それは辛すぎるね,,,。天の川ちゃんよく耐えたよ」
そういってくれた。
私が待っていた答え。
満たされていくのを感じた。
それと同時にやっぱり私は間違っていなかったんだと、悪くないんだという気持ちが沸きあがってきた。
破滅ちゃんは私をたくさんたくさん慰めた後にこう言った。


[そのクラスの子晒しちゃおうよ]