「みなさ~ん!こんばんわ~」

≪始まった!≫
≪ヤバイにやけ止まらん≫
≪皆集合!w≫
≪みんなおきとるかーwww≫
≪なんも知らなそうなの草≫

きらりは予定どおい配信を始め、呑気に来た人に挨拶したり投げ銭してくれる人たちにお礼を言ったりしていた。

「”今日ビジュいい” ほんと?嬉しい~」
「”きらりLOVEさん” ギフトありがと~」

誰が先陣を切るか。皆様子をうかがっているようだった。
聴衆は多い方がいいでしょ。もっともっと多くの人の前で恥をかけばいい。
あんたが林かそうじゃないかなんてどうでもいい。
ただもう林は学校に来なくなった。
私が邪魔だと思う人を排除する力が私にはある。
だからこいつも痛い目をみて、堕ちるところまで堕ちればいい。

視聴者数は549人。
弱い数字だがまあいいだろう。
ドラマの裏側や有名な俳優との思い出話をべらべらと話すきらりに爆弾を落としてやる。
さて、どんな顔するかな?

≪女優気取りかよw いきんなww≫

素早くそうって送信を押す。
でも私のコメントはきらりに読まれることなく他のコメントにより流されてしまった。
は?無視かよ。ふざけんな

≪図星ですか~? 大根演技の癖に女優気取ってんな~≫

一瞬、きらりの顔がゆがんだのを私は見逃さなかった。
そしてそれに気が付いたのは多分、私だけじゃなかった。

≪女優気取り乙www≫
≪主のコメント好きw≫
≪俳優さんリアコ勢の事なんも配慮してくれないんだ≫
≪しかとは草≫

コメント欄は一気に荒れた。
さすがにきらりも反応せざるを得ない状況にもっていくことに成功した。

≪きらりちゃんアンチになんか反応しちゃだめだよ!≫
≪待って、コメント欄急にどうした?≫
≪ひがみですか?きらりちゃんを傷つけるようなコメントは控えてください≫

≪きらりのファン盲目で草≫
≪あーwやっぱりきらりのファンって小学生多いのな笑≫

いきなり始まったコメント欄論争。
これにきらりは「まってまって皆落ち着いて!ファンの方ありがとう 私はアンチなんて気にしてないよ~」とあたかも冷静を装っているような立ち振る舞いでその場を収めた気になっていた。
なので追い打ちをかける。

≪私のクラスの子こいつと声似てるって言われて学校来なくなったぞ≫

このコメントへの皆の飛びつきがすごかった。

≪え、まじ?≫
≪動画の子だよね、かわいそう,,,≫
≪人の人生めちゃくちゃにしてて草≫
≪責任問題じゃね?≫
≪高校生なんてこれからって時なのに≫
≪この件についてノーコメントですか~≫
≪罪の無い他人の人生めちゃくちゃにして食べる飯はうまいですか~?≫

「じゃあ、まずこの件に触れようか」
手をパンと叩いて、何とかこの流れを止めたいきらりは急に語りだした。
だから負けじとコメントをする。

「動画の女の子についてはまだ事実確認がしっかりできていないのでちゃんとお話しすることはできないんです」
≪事実確認もクソもって感じ 学校に来なくなってるんだよ?≫
「ほんとに私のせいで学校にいづらくさせてしまったのなら、本当に申し訳ないです」
≪謝って済む問題じゃないでしょw≫
「本当にごめんなさい。今の私のはこれくらいしかできなくて。ほんと、申し訳ない」
≪反省してないよね 言わされてる感≫
「んー、ちょっとほんとにまだ詳しくはお話できないです。すみません」
≪じゃあ、自分とは関係ないからしったこっちゃないってことですね?≫
「そういうわけじゃないです。ただ私の勝手な発言が誤解を招いてもいけないので」

くねくねしながら言うきらりを見ていたら、ちらっと画面の隅にもう1台、スマホの画面が見えた。

いいことを思いついた。

私はもう1つのスマホで林に連絡をした。
「元気?」
と。

次の瞬間。
ブーという音と共に映り込んでいるスマホ画面に通知とギリ私の名前が見えた。
ほんとにギリ。
でもギリでいい。
いいネタになる。

≪スマホ鳴らしてんなよ≫
「すみません私用のスマホを時計代わりにしていて」

すぐさまほぼ捨て垢のような、今まで使ってこなかったアカウントでライブに入り

≪え、今画面映ったよね アカウント名とか丸見えだったけど…≫

そうコメントした。
こいつは林だ。たった今、それが決定した。
あの林がきらりだったなんて。
笑いがこみあげてくる。

そしてこのコメントにまた皆が飛びつく。
≪え、個人情報漏らしてるやん≫
≪映ってた 見た見た≫
≪やばww人の情報どんどん売っていくやんw≫
≪それな笑 てゆうか通知切っとけよ わざとなん?≫

これにはきらりは何も言えなかった。
もう戦意喪失というやつだろう。
マネージャーのような人が「今日はこの辺にしよう」と隣から声をかけた。
今、もう少しで勝てそうなこの状況を私達がみすみす逃すようなことをするはずがなかった。

≪にげんの?≫
≪あなたのせいで学校いけなくなった人は逃げ場ないのに≫
≪きらりこういうのちゃんと向き合いたいってこないだの配信で言ってたのに~≫
≪なんか興覚め≫
≪逃げ足だけは早くて草≫

こうコメントされてはきらりのプライドが許さなかったのか「いえ、大丈夫です」とライブを続けようとしていた。
ファンは≪無理しないでね≫≪全然休んでいいからね≫≪無理せず休んで,,,≫と言っていたし、マネージャーもきらりの気持ちどうこうじゃなくてこれ以上余計な火種を創りたくなかったんだと思う。
マネージャーに強く止められてはきらりもあまり反抗できない。
荒れにあれたライブは終わりの方向に進んでいて、みんなはこれでもかと捨て台詞混じりのコメントを打ち始めた。
私の最後のコメント。

《SNSに顔晒すならこれくらいのこと覚悟してるの当たり前でしょ》

それに対して《たしかに》《それに限るよな》というコメントをめにして、きらりの配信は終わりをつげた。

そこから数日、配信の切り抜きや画録がSNSに広がりまくった。
きらりへのアンチは湧き続け、留まることを知らなかった。
あんな設定ガバガバで私自身も無理があるかなと思っていたスマホ画面映り込み事故も誰もちゃんと考えることなくとりあえず叩きまくっていた。
そして最悪なことにきらりの出演するドラマは低評価とアンチコメで溢れ、主役の俳優にまで被害が及ぶ始末だった。

あぁなんて気持ちがいいの。
最高の気分。
破滅ちゃんとも連絡を取り続けていて2人で喜びを分かちあった。

いつも通りルンルンで登校し、朝のホームルームが始まる。
先生が教壇に立ち、何やら暗い顔でみんなが静かになるまで待った。
こーゆーのだるい。
朝から自分の機嫌が悪いからって拗ねんなよ。
担任の態度に腹が立つことをSNSに書き込もうとスマホを開き、
息を飲んだ。
思わず出た声は
「え?」
だった。