四角く切り取られた画面上に、赤い瞳の小さな黒ウサギがいる。黒ウサギは狭い真四角の部屋の中を行ったり来たり、ときおり毛繕いをしたりしてくつろいでいる。
空間には、大音量でラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』が流れている。
画面上にドーナツのアバターが現れた。それまで画面上でくつろいでいた黒ウサギの耳が、ぴんと立った。
『黒ウサギの君に依頼したい。家族を奪ったテロリストを殺したいんだ。赤いオオカミの本拠地を突き止めてくれ』
赤い瞳が、怪しげにすうっと細められる。黒ウサギはカラフルなおもちゃ箱を漁り、真っ赤なボウリングボールを取り出した。
『さぁ、ショータイムの始まりだ』
黒ウサギは、まんまるの手でボウリングボールを掴み、かまえる。
画面上には、『LADY』の文字。
黒ウサギは、持っていたボールを素早くスライドさせた。
『COROCOROCORO……』
黒ウサギの手から離れたボールは、画面上をまっすぐに滑り、やがて……。
『BAN!!』
ビィーッとけたたましいアラーム音が鳴り響いたあと、画面が暗転した。
黒ウサギは今日も、『HAKONIWA』の中で暗躍している。
* * *
――赤い瞳を持つ黒ウサギを見つけたときは、よく目を凝らすべきだ。
それが敵なのか味方なのか、はたまたそのどちらでもないのか、きちんと見定めなくてはならない。
見定めるには、影を見ればいい。黒ウサギが微笑んでいるのか、それとも嘲笑っているのか、きちんとその影を見て判断するのだ。
もしも影が嘲笑っているのなら、追いつかれる前に必死に逃げた方がいい。
その赤い瞳にとらわれてしまったら、もうおしまいなのだから。
黒ウサギは、可愛い草食動物などではない。愛でるべきものでもない。それは、笑顔で誰かの血肉を貪り喰らう、冷酷で獰猛な獣なのだ。
みなさん、街中で美しい瞳の黒ウサギを見かけたら、くれぐれも気を付けて。