もういつだったか覚えていない。
小学生になる前だったような気がする。
一般家庭でよくあるような一軒家ではなく、屋敷を連想させるような広い家に祖母と二人きりで暮らしていた。
初めて祖母が人魚姫の絵本を読んでくれた時、王子様と結ばれず泡になってしまった人魚姫が可哀想で泣いてしまった。
「おばあちゃん、どうして人魚姫様は泡になったの?可哀想だよ」
「そうさねぇ、どうしてかねぇ」
祖母は慰めることをせず、ただ「どうしてかねぇ」を繰り返していた。
しくしくと泣く孫を見兼ねて、祖母は言った。
「一華はね、人魚姫なんだよ」
泣き止まない孫の頭を撫でながら、祖母は続けた。
「一華のご先祖様はね、この絵本に出てくる人魚姫だったんだ」
「でも、王子様と結ばれないと子どもはできないって、この前おばあちゃん教えてくれたよ」
「この人魚姫はね、王子様より前に他の王子様と出会ってたんだよ。もう千年以上前の話だ」
当時は祖母が何を言っているのか、詳しく理解できず、結婚とは何か、子どもはどうやってつくるのか、その事が理解できる年齢になって漸く知ることができた。
この頃はまだ、複雑な事はよく分からなかった。
人魚姫が王子様に出会う前、他の男と恋をして授かった子が人間と結婚し、子を生み、その子どもがまた子を生んでを繰り返して、一華が存在した。
「じゃあ一華、人魚姫なの?」
「そうだよ」
「一華も泡になって消えるの?」
「そんなことはない。一華には足があるだろう」
「どうして一華は人魚姫なのに足があるの?」
「人魚だったのは人魚姫と、その子どもだけさ。そこから人間と結婚し続けているから、最早人魚の血はないだろうね」
「おばあちゃん、難しいよ」
「そうかい。じゃあ大人になったらこの話をしよう」
祖母は優しかった。
父は愛人と逃げ、母は蒸発し、居場所のない孫を一人で育てていた。
純粋な心を持っていた一華は、自分が人魚姫であることを少なからず喜び、祖母と二人の秘密にした。
祖母が読んだ人魚姫の絵本は一華の宝物になり、毎日のように就寝前は祖母に読んでもらっていた。
小学生になる前だったような気がする。
一般家庭でよくあるような一軒家ではなく、屋敷を連想させるような広い家に祖母と二人きりで暮らしていた。
初めて祖母が人魚姫の絵本を読んでくれた時、王子様と結ばれず泡になってしまった人魚姫が可哀想で泣いてしまった。
「おばあちゃん、どうして人魚姫様は泡になったの?可哀想だよ」
「そうさねぇ、どうしてかねぇ」
祖母は慰めることをせず、ただ「どうしてかねぇ」を繰り返していた。
しくしくと泣く孫を見兼ねて、祖母は言った。
「一華はね、人魚姫なんだよ」
泣き止まない孫の頭を撫でながら、祖母は続けた。
「一華のご先祖様はね、この絵本に出てくる人魚姫だったんだ」
「でも、王子様と結ばれないと子どもはできないって、この前おばあちゃん教えてくれたよ」
「この人魚姫はね、王子様より前に他の王子様と出会ってたんだよ。もう千年以上前の話だ」
当時は祖母が何を言っているのか、詳しく理解できず、結婚とは何か、子どもはどうやってつくるのか、その事が理解できる年齢になって漸く知ることができた。
この頃はまだ、複雑な事はよく分からなかった。
人魚姫が王子様に出会う前、他の男と恋をして授かった子が人間と結婚し、子を生み、その子どもがまた子を生んでを繰り返して、一華が存在した。
「じゃあ一華、人魚姫なの?」
「そうだよ」
「一華も泡になって消えるの?」
「そんなことはない。一華には足があるだろう」
「どうして一華は人魚姫なのに足があるの?」
「人魚だったのは人魚姫と、その子どもだけさ。そこから人間と結婚し続けているから、最早人魚の血はないだろうね」
「おばあちゃん、難しいよ」
「そうかい。じゃあ大人になったらこの話をしよう」
祖母は優しかった。
父は愛人と逃げ、母は蒸発し、居場所のない孫を一人で育てていた。
純粋な心を持っていた一華は、自分が人魚姫であることを少なからず喜び、祖母と二人の秘密にした。
祖母が読んだ人魚姫の絵本は一華の宝物になり、毎日のように就寝前は祖母に読んでもらっていた。