「……えっと、お客様は、どうしてここへ？」

　とはいってもなかなか話の切り出し方が見つからないんだろう、新月さんは本題に入る前に、控えめな声でありがちな質問をしてきた。
　私はさっき笑った時に細めた目を元に戻し、口角をさっきよりも高く上げ、愛想笑いを「全然大丈夫ですよ、心配しないでください」から「少し照れた感じの笑み」に切り替える。

「別に大した理由はないんですけど、」

　そして、話し出そうとした。今まで何度となく口にしてきた、一言一句、声のトーンや細かな声色まで暗記しているセリフを、いつものように声に出そうとした。
　＿＿＿＿でも。

　なぜか、喉が詰まる。

　口が言葉を拒否しているみたいに、声が上手く出ない。

「えっと、」

　なんでだろう。今までこんなことなかったのに。
　スラスラと、ちゃんと答えられるはずなのに。