その時、『厨房』と書かれたプレートを揺らして、カウンター奥のドアが開いた。
 中から、これまた着物姿の店員さんが出てくる。小さい方の女の子と違うのは、調理実習でよくやるような、頭に巻いたバンダナ(でも、喫茶店でもバンダナってするの?)。
 着物も無地の女の子に対して桜の柄がついていて、帯の後ろにフワフワした毛皮みたいな茶色の飾りがあって、ちょっと豪華だ。

「あっ、新月《あらたづき》さーん!」

 顔を輝かせ、ブンブン手を振る女の子。
 新月さんと呼ばれた店員さんは女の子の方を向いて、続いて私に気づいて目を丸くした。
 閉店後に残ってっていうの、この小さい女の子の独断だったらしい。
 と思ったら女の子は私の方を満面の笑顔で振り向いて、

「お姉さん、新月さんがお姉さんにお話したいことがあるんだって!」
「ちょっと!?」

 新月さんが慌てた顔でパタパタと近寄ってくる。
 あ、全然独断じゃなかった。もしかしてあれかな、長居しすぎたから注意されるのかな……そういえばもう奥に下がっちゃったけど、めっちゃイケメンのマスターがいたんだよね。
 見惚れてたせいで全然何も注文してなかったからそのことかも……。そりゃ閉店時間まで注文せずに居座ってたら怒られるわ……。

 覚悟を決めて姿勢を正し、神妙な表情を作って待機していると、予想に反して近づいて来た新月さんは勢いよく頭を下げた。