「私は過去の自分に、そして、あなたに伝えたいんです。この世のどこにも自分を受け入れてくれる人がいない時、この世のどこにも自分の居場所が存在しないと思った時……それでも必ず、どこかにいるんだってことを。あなたが、私が、その時気づいていなくても、自分を誰よりも想っている人はいるんだって」

 新月さんの強い声が、凛と私の中に響く。

「泣いてもいい。負けてもいい。逃げてもいい。怒ってもいい。叫んでもいい。____諦めてもいい。
だけど忘れないで。帰ってくることを。何があっても自分の家に帰ることを。自分の家というのは本当に家かもしれない、友達の隣かも知れない、どこかの喫茶店かもしれない。どこでもいいんです。自分が帰りたいと思った場所に、必ず帰って、『ただいま』を言ってほしいし、またやってきた誰かに『お帰り』を繋げて欲しいんです。忘れないで。応援されていることを。愛してくれる人がいることを。

 私は忘れていた。ずっと忘れていた。気づいていなかった。

 だけど、今はダメでも、諦めても、思い出せるときは、気づけるときは、分かるときは絶対に来るから、


 来ないなら、私がきっと呼ぶから。

 どうしてもどこにも行けない時は、その時は、この喫茶店がいつでもあなたを待っているんだって、それを思い出してください。

 紅茶の味を、お帰りを言ってくれる人を、忘れないでください」

 気づいたら私は泣いていた。
 大粒の雫が、どんどん頬を伝って止まらない。