良く言えばマイペース、悪く言えば自分勝手。
彼女はそんな“先輩”で、新入社員の頃から振り回されてきた。
他の同期は異動やプロジェクトへの抜擢等で自然と離れられたのに、何の因果か私だけは彼女の下で補佐という名の尻拭いの日々。
よく小説や漫画で奔放な上司に振り回される真面目な部下という図を見かけるが、正にアレだ。
しかし現実は意地悪だ。フィクションのようにそっと部下を気にかける内緒の優しさ──なんてものは生憎彼女とは無縁だった。
社交的で積極性もある彼女は何かあればいの一番に名乗りを挙げることが多いが、その実務はワンテンポ遅れて土砂降りの如く私に降り注ぐ。
それから逃れることはできないまでも、なるべく火の粉を振り払おうと先を見越した作戦で乗り切ってきた私についたあだ名は、パーフェクト・ムーン。
望月環(もちづきたまき)、というどこまでも欠けることを知らない名前がこんな風に茶化されるだなんて思わなかった。
まあ、そのあだ名をつけた張本人の先輩とは彼女の昇進に伴い近々おさらば──なのだけど、最後の最後にとんでもない置き土産が待っていた。
彼女が主導で進めていたプロジェクトの丸投げである。
話を受けて、メンバーを集めて、方針を決めて──そこでぽんと手放せる神経がわからない。
しかし、私の物わかりが良くても悪くても仕事は降ってくるのだ。それも困惑と苛立ちを抱えたメンバーと共に。
私にも手がけている仕事はある。しかし、先輩の方を優先させよと部長のお達しだ。
だからこそマグカップの中身がコーヒーだか紅茶だかわからなくなる勢いで、二足の草鞋を一足にすべく仕事を片付けていた訳なのだけど……。