「バレちゃってましたか」

私が肩をすくめるのをみながら、紺は黙って私の言葉の続きを待っている。

「……実は……高校卒業してすぐに入社して三年経つんですけど、なかなか営業成績が上がらなくて……高卒入社は私だけなんですけど、他の大卒の同期の仕事決まると……素直に喜べないし劣等感感じるし。なんか夢をもって就職したはずなのに全然仕事が楽しく思えなくって……今日みたいに金曜の夜から週末で気分転換しなきゃって思うんですけど地元の友達は大学進学してる子がほとんどで……それに街中で同年代の子を見ると、なんか私って何やってるんだろうっていうか、空しくなるっていうか……私っていう存在がどうでもよく思えてきて……」

そこまで口に出すと私の両目から勝手に涙の粒がコロンコロンと転がった。

こんなふうに自分のことを誰かに話したのは初めてかもしれない。ふいに私の頭があったかくなる。見上げれば紺の掌が子供にするように私の頭を撫でていた。

「頑張らなくていいんです。琴さんは十分頑張っています。それに十分一人の女性として魅力的です。あなたという女性に救われた方はこの世にきっと居ますから」

「……そんなことないです……私は誰にも必要とされてない」

私には両親がいない。父と母は私が五つの頃に離婚して私は父に引き取られたが高校三年の夏に父は病気でこの世を去った。大学進学を諦めた私は、料理人だった父の影響でシステムキッチンメーカーに就職した。父が生き生きと厨房で料理をしてお客様の笑顔を幸せそうに眺めている姿が忘れられなかったからだ。就職するならそんな父との縁がある製品を扱う会社で働きたかった。同じように父と一緒にお客様を笑顔にする仕事に携わりたかった。

「じゃあ僕が必要としてもいいですか?」

「え……?」

紺の言葉をかみ砕いて心に収める頃に心臓が騒がしくなっていく。

「このとおり、この店の今日はお客さんは琴さんだけです。軌道に乗るまでいつまでかわかりませんが暫くは閑古鳥が鳴く日が続くでしょう。だから僕の店に通ってくれませんか?そして良かったら琴さんの僕の料理への感想また頂きたいのですが?」

(び……っくりした……)

「琴さん?どうでしょう、ダメですか?」

紺からの思ってもみない提案に私は思わす涙を止めて目をまるくした。