私は真っすぐにあやかし神社に向かうと二百段以上の長い石階段を息を切らして駆け上がる。

「はぁっ……はあ……」

太ももが悲鳴をあげながら、私は境内に着くと大きく息を吐き出しながら呼吸を整えた。そして財布から五円玉を取り出すとお賽銭箱に投げいれ、本坪鈴をガラガラと鳴らすと深いお辞儀を二度繰り返して二拍手し、私は大きな声で願い事を口にした。

「あやかし神社の縁結びの神様におねがいです!もう一度……紺とコンに会わせてくださいっ!どうか紺ともう一度縁を繋いでくださいっ!」

私は両手を合わせたまま、じっと静寂の中で瞳を閉じた。

ざわざわとご神木の葉が揺れて瞼越しにこちらを煌々と照らしていた満月が雲に覆われていくのがわかる。薄ら目で見渡せば視界が闇に染まっていき、私が怖くなって身をかがめた瞬間、ふっと目の前が明るくなった。

「コンばんわ。琴さん、僕のこと呼びましたか?」

「えっ……」

耳元から声が聞こえてその声に上体を起こすと、目の前には初めて会ったあの日と同じ黒のズボンに白のシャツを身に纏い、ただ髪だけは括らずに柔らかそうなオレンジ色の長い髪を夜風に揺らす紺が立っていた。

「あ、琴さん。ハンカチ、長い事お借りしていてすみませんでした。本当は琴さんとのことを忘れたくなくてわざとお返しせずに僕のタカラモノにしてたんですけどね」

「え……そう、なの……」

「はい」

紺がいつものように茶目っ気たっぷりに目を細めて笑う。その笑顔がくすぐったくて嬉しくて心臓がきゅっと苦しくなる。この気持ちを言葉にするとしたらなんだろう。きっとそれは御守り袋と同じ色の感情を纏った言葉なんだろう。

「まさか琴さんが……僕と縁結びを祈願されるなんて……驚きました」

「えっと、あの……その私、紺さんにそのどうしても伝えたいことがあって」

「僕もですよ」

その言葉と紺の笑顔に心臓がとくとくと駆け足になっていく。