思わずそう口にしていた。父も友達も私のことを呼び捨てだったが母だけは『琴ちゃん』と呼んでくれていた。母の声が女性の声とピッタリ重なって、迷子になっていた心と心が見えない力に引き寄せられてキツく結ばれていく。

「琴……だよ。私の名前、如月……琴」

震えていてちゃんと届いたか分からないくらいの小さな声だった。それでも直ぐに私の身体はあったかくなった。

「え……」

見上げれば女性は私の身体を抱きしめると何度も何度もごめんねを繰り返した。そして私の頬に触れると、いつの間にか転がっていた涙をそっと指先で(すく)ってくれた。

「まさか……こんなことが……琴ちゃんに会えるなんて……」

「ごめんね。おかあ……さんのメッセージいつの無視して……私」

「全然いいのよ、こうして会えて琴ちゃんの顔を見てお誕生日おめでとうって言える日がくるなんて……お母さん一生分の御利益使っちゃったわね」

母は涙を流しながらワンピースのポケットからスマホを取り出して振って見せた。そのスマホの先端には私と同じあやかし神社の縁結びの御守りがぶら下がっていた。



「……はい、親子丼お待ちどうさまです」

紺が私達の前に出来立ての親子丼をことんと置く。鶏肉に卵が絡まってまるで抱き合っている私達親子みたいだ。

「さぁ冷めないうちに。これを食べればお二人の縁は強く結ばれ、もうきっと二度と離れることはないでしょうから」

私と母は顔を見合わせると親子の絆を噛み締めるように親子丼の味わっていく。その味は初めて食べた味なのにどこか懐かしくて、やっぱり涙が転がった私を見ながら、紺が頭をポンと撫でた。