女性がふっと笑った。

「ごめんなさい。ぺちゃくちゃとおしゃべりしちゃって……」

「あ、いえ。その娘さん……お誕生日なんですね」

そう口にしながら心がそわそわとして落ち着かない。こんな偶然あるんだろうか。隣の女性も十五年会ってない娘がいて、その娘の誕生日が私と同じだということ。自分の鼓動がやけに大きく聞こえてきて、呼吸が浅くなる。

「そうなの、今日で二十一歳なのよ。あなたと……同じ年くらいかしら」

じっと見つめられた瞳は優しくて、じんわりと心があったかくなる。私は思い切って口を開く。

「実は……私も今日誕生日なんです」

「まぁ、そうなのね。お誕生日おめでとう。素敵な一年になるといいわね」

女性が満面の笑顔をこちらに向ける。そのありきたりな言葉に何故だか胸が高鳴ってどうしようなくうるさくなっていく。私はどうしたらよいかわからなくなって頬を掻くと俯いた。

すると右隣からぐすっと鼻をすする音が聞こえた。見れば女性が目元をハンカチで拭っている。

「あ、あの……」

「あ、ごめんなさい。驚かせちゃうわよね、いきなり泣き出すなんて……でも何だかあなたが……あの子に、琴ちゃんに似てて……」

「え?」

一瞬頭が真っ白になる。そして記憶の端っこが何か強い力でぐっと引き寄せられていくのを感じて私の目頭も熱くなる。

(今……なんて……)

忘れていた記憶が女性の涙と一緒に脳の中に映像となって浮かびあがって来る。


──『琴ちゃん……ずっと大好きよ』

そういって最後に抱きしめてくれた母の記憶が蘇る。

「……おかあ、さん……?」