会いたい、という言葉にどきんとする。メッセージの送り主である母にはもう十五年会っていない。そもそも母と呼んでいいのかもわからない。私には幼すぎて母と呼べる人との記憶がほぼないからだ。ただ私のことを『琴ちゃん』と、ちゃん付けで呼んでくれていたことだけは覚えている。

「あ……」

「琴さん、どうかしましたか?」

「いえ……知り合いからメッセージが来ただけで」

「そうですか。よかったら誰もいませんし、スマホ使ってもらって構いませんよ?」

「いや……」

「もしかしたらとても大事な用かもしれませんし……いつも会えると思っていても人間何がおこるかなんて神様にも分からないですからね。話せるときの話すのが一番です」

(どうして……)

私はまるで心の中を見透かすような紺の言葉に違和感を感じたが、何だか質問するのが躊躇われて芽生えた疑問を飲み込むと紺をじっと見つめた。紺はふわりと笑うと私から視線を外し、手元の鍋に玉ねぎを切って炒めていく。

(話せるときに話すか……)

高校三年生の時に父が亡くなって、四十九日の法要がほど経った頃だった。私の母から突然連絡があったのだ。まだギリギリ十八歳になっていなかった私の親権が父から母に移ったことをその時に母から聞いて知った。

十五年ぶりに聞く母の声は幼くして別れた私には聞き覚えもなくその時も『会いたい』と言われたが正直困ってしまい、電話に出たのはそれ一度きりだった。それでも母はそれ以降一カ月に一度は、『元気ですか、無理しないでね』『食事は取れていますか、身体が資本です』と電話に出ない私にショートメールでメッセージを送ってくるようになった。

「琴さん、大丈夫ですか?」

「あ……その」