「では……お料理早速作り始めますね、ゆっくりされててください」
紺がお鍋に水を注ぎ、コンロに火を点けると鰹節をさらさらと入れていく。ふわっと鰹節の良い香りが鼻腔をくすぐる。
「鰹節でお出汁を取るので少しお時間くださいね。鰹節ってアミノ酸が豊富でカルシウムを効率よく摂取できるんです。あと美容成分も含まれていて、夜ぐっすり眠れる安眠効果もありますしね」
「わぁ、知らなかった……万能ですね。それにいい香り……」
「そうですね。ちなみにこの鰹節、だしを取った後も栄養があるので僕は捨てずに、油揚げを細かく刻んだものと一緒に煎ってふりかけにしてるんですよ。すごくおいしいので神棚のお供えにも時々かけたりしています。あやかし神社に祀られているのはキツネの神様なので、香ばしいモノが大好物なんでね」
「え?狐、ですか?」
(そういえば……あの子と出会ったのもあやかし神社のすぐそばだったな)
「えぇ、琴さんは神話とか昔話って信じる方ですか?」
「そう、ですね……霊感とかは全然ないんですけど、おまじないとかご縁とか、その神頼みみたいなことは割と信じてる方です」
「そうですか、ちなみにあやかし神社には古くから人に化ける狐の神様が棲んでいると伝承があるんですよ」
「え!人に化ける狐?」
「ふふ、そうです。狐は昔話でよくズル賢いとかなにかと悪役にされることも多いですが、情に厚く恩には恩で返す律儀な面も持っていて、お世話になった方の元へ恩返しに行くこともあるらしいですよ」
私はあの子のことを思い出すとふっと笑った。
「琴さん?」
「あ、いや実は一カ月前に……ケガをした狐を助けたことがあって、ケガが治るまで一緒に暮らしてたんです。たった七日間だったんですけど、いつの間にか家に帰るのが楽しみになっていて……私ひとりぼっちだから……誰かが家で待ってくれていることが嬉しくて。でもある日、家に帰ったらベランダの窓が開いていていなくなっていて……それきりなんです。最後にバイバイくらい言いたかったんですけどね」
「そうですか……でももしかしたらその狐、恩返しにまた琴さんの目の前に現れるかもしれないですね」
「そうだったらいいな……その子の腕に巻きっぱなしのお気に入りのハンカチも返してもらわなきゃだし」
「あはは、今頃僕と琴さんの話を盗み聞きして慌てて洗ってるころかもしれないですね」
私が紺の言葉に声を上げて笑った時だった。スカートのポケットの中のスマホが震えた。
紺がお鍋に水を注ぎ、コンロに火を点けると鰹節をさらさらと入れていく。ふわっと鰹節の良い香りが鼻腔をくすぐる。
「鰹節でお出汁を取るので少しお時間くださいね。鰹節ってアミノ酸が豊富でカルシウムを効率よく摂取できるんです。あと美容成分も含まれていて、夜ぐっすり眠れる安眠効果もありますしね」
「わぁ、知らなかった……万能ですね。それにいい香り……」
「そうですね。ちなみにこの鰹節、だしを取った後も栄養があるので僕は捨てずに、油揚げを細かく刻んだものと一緒に煎ってふりかけにしてるんですよ。すごくおいしいので神棚のお供えにも時々かけたりしています。あやかし神社に祀られているのはキツネの神様なので、香ばしいモノが大好物なんでね」
「え?狐、ですか?」
(そういえば……あの子と出会ったのもあやかし神社のすぐそばだったな)
「えぇ、琴さんは神話とか昔話って信じる方ですか?」
「そう、ですね……霊感とかは全然ないんですけど、おまじないとかご縁とか、その神頼みみたいなことは割と信じてる方です」
「そうですか、ちなみにあやかし神社には古くから人に化ける狐の神様が棲んでいると伝承があるんですよ」
「え!人に化ける狐?」
「ふふ、そうです。狐は昔話でよくズル賢いとかなにかと悪役にされることも多いですが、情に厚く恩には恩で返す律儀な面も持っていて、お世話になった方の元へ恩返しに行くこともあるらしいですよ」
私はあの子のことを思い出すとふっと笑った。
「琴さん?」
「あ、いや実は一カ月前に……ケガをした狐を助けたことがあって、ケガが治るまで一緒に暮らしてたんです。たった七日間だったんですけど、いつの間にか家に帰るのが楽しみになっていて……私ひとりぼっちだから……誰かが家で待ってくれていることが嬉しくて。でもある日、家に帰ったらベランダの窓が開いていていなくなっていて……それきりなんです。最後にバイバイくらい言いたかったんですけどね」
「そうですか……でももしかしたらその狐、恩返しにまた琴さんの目の前に現れるかもしれないですね」
「そうだったらいいな……その子の腕に巻きっぱなしのお気に入りのハンカチも返してもらわなきゃだし」
「あはは、今頃僕と琴さんの話を盗み聞きして慌てて洗ってるころかもしれないですね」
私が紺の言葉に声を上げて笑った時だった。スカートのポケットの中のスマホが震えた。