美味しいムニエルを食した帰り道で、見慣れない占い師に出会った。その男は、高校生くらいだけれど、私よりは年上という感じで、不思議なオーラをまとっていたように思う。神秘的で美しい男性だった。うっかり見とれていると――

「おねーさん、占いやっていかない? 100円だよ」
 美しい男は軽いノリで話しかけてきた。
「100円で占いができるの? でも、どうせ素人なんでしょ。安すぎるよ」
「俺はプロの占い師だから、まじで当たるよ。占いたくない?」
「うーん、占いたいけど……」
「恋愛運とか?」
 きれいな顔立ちの男性に見つめられただけで、恥ずかしくなってしまう。基本的に女子高在学の私は、男性に免疫がないので、目をそらしてしまった。椅子に座るとタロットカードで占いを始めた。
 黒いマントのようなものを纏い、全身黒色の服装の男は、割と目立つ。この人が芸能人のようにスタイルがよくきれいな顔をしているのもあるが、あまりこのような服を着ている人は見かけない。占い師ならばちょっと個性がある服装は、神秘感を出すためには必要なのかもしれない。

「君は不思議な運勢だね。見たことないタイプだよ。色々な騒動に巻き込まれるけれど、素敵な仲間がいて、楽しい未来が待っているってさ。肝心の恋愛運は……2人の男の間で揺れ動くってさ」

「そんなことないよ、私一途だもん」
「君、男と付き合ったこともないのに、そんなことよく言えるよね」
 付き合ったことがないって、言ったっけ? なぜこの人わかっちゃったの? 彼氏いなそうなタイプって思われたかな。きっと適当に言ったに違いない。

「たしかに付き合ったことはないけど、恋多き女じゃないよ」
「まだ、それは本気の恋を知らないからそんなことを言えるんじゃない?」
 挑戦的な口調で言われると、気が多い女と言われているみたいで、内心むっとしてしまった。この人、かっこいいけれど、私とは合わない。そう思った。

「また来なよ。おっと、名前は?」
「夢香よ。あなたはいつもここにいるの?」
「占いは時々やっているから、いつ会えるかはわからないよ」
「100円じゃ稼げないよね」
「100円は、俺にとっては結構いい商売なんだよね」

 さっき聞いた100円が1万円の価値になるっていう話にちょっと似てる? 一応ピアスを確認してみたけれど、なにもつけていなかった。でも、金髪だ。よくいる不良の類なのかもしれない。

「学生なの?」
「17歳の高校生」
「バイトなんてしていいの?」
「うちの高校は自由主義だから。君はこう見えて、結構男を惑わすタイプってカードは教えてくれたけれど、そう見えないよな、色気も全然ないし」
「ちょっと失礼じゃない? 私には今、ちょっと気になっている人がいて……」

 アサトさんのことだ。あの人はかっこいいし、落ち着きがあって優しい。あの人とならば、付き合ってもいい。むしろ、彼女に立候補したい。そう思える。

「気になる人ねぇ。目の前の俺のことか?」
 男がにやけながら自分を指さす。
「違うってば」
「じゃあ占ってあげるよ。その人との相性」
 男は、ぱらっとカードを広げて一枚取り出した。
「へぇ。君が好きな人との相性は、微妙だな。悪いわけでもないけれど、いいわけでもないらしい。でも、これから、もっと相性のいい人に出会えるって」
 ヤンチャな微笑みの謎の占い師。顔立ちがきれいだから余計ムカつく。一瞬でも目を奪われた自分を責めた。

「適当なこと言わないでよ。私は帰るから。もう会うこともないだろうけれど」
 ちょっとむかついた私は、仕事帰りの人であふれている駅に向かって、帰ることにした。

「じゃあ、これあげる。また会えるおまじないってところ。またな」
 男が手渡したものは個包装された七色のマシュマロだった。
「毒入りとか言わないでよ」
「惚れ薬入りだよ」
「はぁ?」
「冗談だって。わたがしマシュマロ、おいしいから食べてみて」
「あやしいもの入っていないでしょうね?」
「大丈夫、ヘンゼルとグレーテルの家から持ってきたお菓子だから」
「もう、冗談ばっかり」

 黒服の占い師の男が手を振る。またはないと思うよ。もう二度と会うこともないだろうから。マシュマロを口に入れてみる。砂糖菓子のように口の中でとろけていく。はじめて食べる感覚のマシュマロだった。味は砂糖よりも甘いのに甘すぎない感じだろうか。初めてのお菓子は、わたがしに似た味わいで綿のようにやわらかいお菓子だった。


※【わたがしマシュマロ】
 わたがしのような甘くすぐ溶けるやわらかい食感。七色の色合い。