学校帰りにお店によると、店内はいつもより緊張感が走っていた。理由を聞くと今日は特別な日らしい。未来の朝と夜の王となるかもしれない人が来るのだから。
「候補者を呼んでいます。まひるもよく知っている人たちですよ。2人呼んでいます」
「私の知り合いで能力が高い人いたかな?」
かわいらしい10歳の姿になったまひるは少し考えたようだが、それらしき人物は思いつかなかったようだ。まひるは営業モードになる。
「こんばんはー。お招きされたライチ参上!!」
元気に店に入ってきたのは時の国のライチという10歳くらいの女の子だった。
「アサト、美味しいの食べたい! 腹へったよ」
言葉づかいは男っぽく育ちがいいとはいいがたい。この女の子を候補として考えているのだろうか、まひるは少し疑問だった。
「ライチ、今日はドリアでいいですか?」
「うまいメシが食べたいなぁ」
不思議な異世界の客がやってきた。時の国から来た常連客のようだが、見た目は小学生くらいの女の子供だ。名前はライチっていうのかな? 一見普通なのだけれど、髪の毛の色がピンクだ。やっぱり私たちとは違う人種なのだろう。
「新人か?」
私に対する言葉遣いは荒く、ぶっきらぼうな女の子だ。男っぽいとでも言ったほうがいいのかもしれない。見た目は、かわいい顔をしているので、しゃべらないほうが人気が出そうなタイプだ。
「こちらは、日本世界からやってきた夢香さん。2時間程度のボランティアをしてくれています」
「日本の国の住人か。料理ができるのか? 日本世界はすごく飯がうまいっていう話だ。期待するぞ」
期待されても、ほとんど料理初心者ですが。そう思い、苦笑いを浮かべた私。
「私、家では全く料理ってやらなくって……。今修行中です。アサトさんに教えてもらっているから」
私のいいわけに、
「なんだ、使えないなぁ」
直球な言葉で言われると正直辛い。それにしても毒舌ガールだ。本当にお腹が空いているらしく、元々やせっぽちな少女は少々ぐったりしているようにも思えた。
「はい、召し上がれ。トマトづくしですよ」
アサトさんがおいしそうなドリアをテーブルに並べた。熱々だ。
「ジューシートマトドリアです。たっぷりとろーりチーズが乗っているので、チーズが大好きなライチにぴったりのドリアですよ。さらに、中身はトマト入りのジューシーライスが入っています。フルーツトマトとリンゴも横に飾りました」
「冷凍トマトをすりおろして、はちみつをかけたしゃりしゃりデザートよ。カルシウムとビタミンがたっぷりよ」
まひるがデザートを運ぶ。
「わあ、おいしそー。めっちゃ腹減ってるからさ、いただきっ」
一口食べると、ライチが目をつぶって大きな口をあけて叫ぶ
「めっちゃジューシー!! やっぱりうまいよ、ドリアっていう食べ物」
艶やかなメニューをひとくちひとくちあっという間に口の中に運ぶ。見た目は小さいけれど早食いなのか、皿の中身があっという間になくなっていく。そのとき、ライチがスプーンを床に落としそうになった。
「やべ」
と言った瞬間たしかに、スプーンは手のひらから離れて床に落ちたと思った……のだけれど、手に戻っていたのだ。
「ライチちゃん、今、スプーン落ちなかったの?」
私が不思議な現象に質問する。
「落ちそうになったけれど手のほうに戻したんだぞ」
「そんなことができるの?」
私はライチという少女の超能力のような不思議な力を見せられたという印象しか残らなかった。
「オイラ、ものを自由に動かす力を生まれつき持っているんだよな」
「超能力者?」
私は目を見てじっくり尋問したくなってしまった。
「それは初耳だわ」
まひるが友人の意外な一面を知ったらしく興味深そうに見つめていた。
「オイラの能力は秘密にしておけってかーちゃんに言われていたからな。今はうっかり使っちまったがな」
「すごい力を秘めた少女ですよ。ライチ。あなたには素質があります」
アサトさんが公認するような言葉をかけた。
「冷たいデザートもトマトなんだけど、甘いんだよね。はちみつがトマトの酸っぱさを抑えていていい感じだ」
「お母さんは、今日も仕事が忙しいのかな?」
アサトさんが優しく聞いた。
「まあね、うちのかーちゃんは仕事がかなり忙しくて、料理は自分で作れっていうけれど、あんまり上手に作れないから、アサトのごはんが恋しくなるんだな」
「なんだか、子供食堂みたいですね。今、子供の貧困って結構問題になっていて、お金もないし、栄養のあるものを食べることができないという子供がたくさんいるんですよね、そういった子供たちに無料で食事を提供している場所が私の世界にはあるんです」
私はふと最近ニュースで目にした話を思い出して、アサトさんのやっていることと同化させていた。
「たしかに、うちは子供からはお金はとらないし、ボランティアレストランみたいなものだからね」
「今日はザクロ君は来ないの?」
まひるが同年代の友達らしく気軽に話し始めた。
「手伝いが終わったら来るって言ってたよ、まひるも毎日大変だなぁ」
「私は、お兄ちゃんのお手伝いが楽しいから手伝っているだけだよ」
まひるはこんなときばかり、アサトさんをお兄ちゃん呼びする。化けの皮を被るのが本当に上手だ。
「ザクロ君って誰?」
「ザクロってのはあたしの幼馴染で家が近所の男子なんだけどさ」
ライチが説明するとすぐに本人がやってきた。百聞は一見にしかずだ。
「こんにちはー」
水色の髪の毛をした男子がやってきた。もしかして、ザクロ君? やっぱり地毛なんだよね、水色の髪の毛なんて間近で見るのは初めてだ。
「はじめまして、僕の名前はザクロです」
八重歯がかわいい子供だ。こちらの世界の小学生くらいだろうか。
「いつも無料でおいしいご飯をありがとうございます」
手を合わせたザクロ君は、とても礼儀正しくて、ライチとは正反対のタイプだった。例えるならばザクロは優等生。ライチは不良生徒のようだ。
「ザクロ君にもおいしいトマトドリアを作ってあげるよ」
アサトさんとまひるの手際よさには驚くばかりだ。あっという間に、ジューシートマトドリアの出来上がり。横に添えた色とりどりのフルーツトマトとりんごもとってもおいしそう。栄養バランスもよさそうな一品だった。
「いただきます」
お辞儀をしてから、ザクロ君は食べ始めた。
「今日は僕たちに話があったのですよね。僕はあなたたちの心が読めるので、話さなくてもわかります。僕はあなたたちに従います。将来の国王様」
「ザクロ君はすごい能力を秘めていることは感じていたけれど、まさかここまでとはね」
アサトさんは予想以上の大物がいたことにすこし驚いていたようだった。
「基本は日本世界の食材を使っているんですか?」
ザクロ君は食材に興味があるらしく色々質問する。
「そうだね、日本の食材は天下一品だと思うよ。僕たちの世界の料理は見た目こそきれいだけれど、味は日本に比べたら劣ることは確実だから。だから、時の世界の住人は日本世界の食事が食べられるということで、僕たちのレストランを利用する者が多いんだ。僕たちの国にはないものばかりだからね」
ふと見ると、口のまわりにごはんつぶをつけたまま、ライチが完食していた。食べる速さがかなりの速度だ。飢えているのだろうか。そういえば、ここのお客さんは早食いで大食いが多い印象だ。おいしいからかもしれないが、そう言った人をここの空間が寄せ付けているのかもしれない。
「ごっちそうさまー」
やんちゃ全開で、ライチがお腹をさすっていた。満腹という至福の笑顔だった。もしかして、この子は貧しい家の子で、生活が大変なのかもしれない。そう感じた。ゆっくり丁寧にザクロ君がデザートの最後のひとくちを食べ終わると満足な表情を見せる。
「ごちそうさま」
ここを手伝っていて一番幸せな瞬間は食べたあとに見せる笑顔をみることだと思った。一番幸せを感じる瞬間だ。
「いただきます」から「ごちそうさま」に至るまでの時間。食べた人がいかに幸せになれるのか、それは食べることの尊さを感じる出来事だった。人はおいしさを感じることで満足感を得て、幸せになることができる。魔法ではないけれど、不思議な力だと感じた。
「この子たち、お腹空かせているのかな?」
「この国は、貧しいからね。国王がなんとかしなければならない問題なのだけれど、僕はできることをやっているよ」
「この子たちの親も仕事で忙しいの?」
「この子たちの親は片親だったり、仕事をしても裕福にはならないことが多くてね、大変な時代だよ。子供も仕事をしているよ。王室は裕福な暮らしをしているのにね」
何となく、苦労を知らないおぼっちゃまという印象だったアサトさんの優しさとボランティア精神が伝わってきた。人間として良い人だ、と思えたのだった。
「君たちは将来お金に困らない暮らしをしてみたくない?」
「そりゃ、お金がいっぱいあればうまいもん食えるからな」
「じゃあ、もしもお金に困らなかったらという未来を見てみない?」
アサトさんはもしもの世界を見せるつもりなのだろうか、記憶を奪うということだろうか? 不安な気持ちになる。
「噂の虹色ドリンクなら飲んでみたいぞ」
ライチがまだまだお腹に入るぞというポーズをとる。ザクロが優等生らしい意見を述べる。
「僕は母さんたち家族が困らない仕事に就きたいと思っているけれど、なかなか時給が低い仕事しかないからね、勉強はしているけれど進学は難しいと思っているよ」
「あなたたち、特別夢がないならば、将来、朝の王と夜の王になってみない?」
まひるが提案した。
「僕はここに来るまでに承諾する覚悟を決めてきました。特別な夢なんてまだ僕にはないですよ。大学で研究してみたいとは思っているけれど」
ザクロが述べる。
「大学で研究したあとに、朝の王になったら? 今の国王の後釜がアサトお兄ちゃんなの。国王が逝去したあとにアサトお兄ちゃんが国王になると朝の王の席が空くのよね」
能力の高さを評価したまひるがスカウトする。
「毎日食べるものに困らないなら、どんな仕事でもやってやるって」
ライチが力こぶを作るポーズをする。
「あなたたちが前向きに検討してくれるならば、記憶をなくす必要はないから虹色ドリンクは飲む必要なんてないのよ」
「うまいなら飲みたかったなぁ、虹色ドリンク」
ライチががっかりする。
「あれは、危険なドリンクなのよ。記憶がなくなるということはとても怖いことなのよ。できればお勧めはしないわ」
まひるが冷静に諭す。やはり頼りになるお姉さんのような存在だ。
「ライチには礼儀作法を1から訓練します。能力を伸ばして将来夜の王となるべく勉強しませんか?」
アサトさんは厳しい家庭教師のようなまなざしだった。
「オイラやってみる!!」
「じゃあ、近々ご家族にご挨拶に伺います。ライチ、オイラではなく、私と言う習慣を身に着けてくださいね」
きっとライチの指導には時間がかかりそうだけれど、アサトさんならばしっかりじっくり面倒を見そうだと思えたが、ライチが音をあげなければいい、それだけが気がかりだと思えた。
※【ジューシートマトドリア】
トマトを混ぜたごはんにとろーりチーズをかけたドリア。
カラフルなフルーツトマトとりんごを添えて。
カルシウムとビタミンが豊富。
【冷凍トマトのしゃりしゃりデザート】
冷凍トマトをすりおろしてはちみつをかけたひんやりデザート。
「候補者を呼んでいます。まひるもよく知っている人たちですよ。2人呼んでいます」
「私の知り合いで能力が高い人いたかな?」
かわいらしい10歳の姿になったまひるは少し考えたようだが、それらしき人物は思いつかなかったようだ。まひるは営業モードになる。
「こんばんはー。お招きされたライチ参上!!」
元気に店に入ってきたのは時の国のライチという10歳くらいの女の子だった。
「アサト、美味しいの食べたい! 腹へったよ」
言葉づかいは男っぽく育ちがいいとはいいがたい。この女の子を候補として考えているのだろうか、まひるは少し疑問だった。
「ライチ、今日はドリアでいいですか?」
「うまいメシが食べたいなぁ」
不思議な異世界の客がやってきた。時の国から来た常連客のようだが、見た目は小学生くらいの女の子供だ。名前はライチっていうのかな? 一見普通なのだけれど、髪の毛の色がピンクだ。やっぱり私たちとは違う人種なのだろう。
「新人か?」
私に対する言葉遣いは荒く、ぶっきらぼうな女の子だ。男っぽいとでも言ったほうがいいのかもしれない。見た目は、かわいい顔をしているので、しゃべらないほうが人気が出そうなタイプだ。
「こちらは、日本世界からやってきた夢香さん。2時間程度のボランティアをしてくれています」
「日本の国の住人か。料理ができるのか? 日本世界はすごく飯がうまいっていう話だ。期待するぞ」
期待されても、ほとんど料理初心者ですが。そう思い、苦笑いを浮かべた私。
「私、家では全く料理ってやらなくって……。今修行中です。アサトさんに教えてもらっているから」
私のいいわけに、
「なんだ、使えないなぁ」
直球な言葉で言われると正直辛い。それにしても毒舌ガールだ。本当にお腹が空いているらしく、元々やせっぽちな少女は少々ぐったりしているようにも思えた。
「はい、召し上がれ。トマトづくしですよ」
アサトさんがおいしそうなドリアをテーブルに並べた。熱々だ。
「ジューシートマトドリアです。たっぷりとろーりチーズが乗っているので、チーズが大好きなライチにぴったりのドリアですよ。さらに、中身はトマト入りのジューシーライスが入っています。フルーツトマトとリンゴも横に飾りました」
「冷凍トマトをすりおろして、はちみつをかけたしゃりしゃりデザートよ。カルシウムとビタミンがたっぷりよ」
まひるがデザートを運ぶ。
「わあ、おいしそー。めっちゃ腹減ってるからさ、いただきっ」
一口食べると、ライチが目をつぶって大きな口をあけて叫ぶ
「めっちゃジューシー!! やっぱりうまいよ、ドリアっていう食べ物」
艶やかなメニューをひとくちひとくちあっという間に口の中に運ぶ。見た目は小さいけれど早食いなのか、皿の中身があっという間になくなっていく。そのとき、ライチがスプーンを床に落としそうになった。
「やべ」
と言った瞬間たしかに、スプーンは手のひらから離れて床に落ちたと思った……のだけれど、手に戻っていたのだ。
「ライチちゃん、今、スプーン落ちなかったの?」
私が不思議な現象に質問する。
「落ちそうになったけれど手のほうに戻したんだぞ」
「そんなことができるの?」
私はライチという少女の超能力のような不思議な力を見せられたという印象しか残らなかった。
「オイラ、ものを自由に動かす力を生まれつき持っているんだよな」
「超能力者?」
私は目を見てじっくり尋問したくなってしまった。
「それは初耳だわ」
まひるが友人の意外な一面を知ったらしく興味深そうに見つめていた。
「オイラの能力は秘密にしておけってかーちゃんに言われていたからな。今はうっかり使っちまったがな」
「すごい力を秘めた少女ですよ。ライチ。あなたには素質があります」
アサトさんが公認するような言葉をかけた。
「冷たいデザートもトマトなんだけど、甘いんだよね。はちみつがトマトの酸っぱさを抑えていていい感じだ」
「お母さんは、今日も仕事が忙しいのかな?」
アサトさんが優しく聞いた。
「まあね、うちのかーちゃんは仕事がかなり忙しくて、料理は自分で作れっていうけれど、あんまり上手に作れないから、アサトのごはんが恋しくなるんだな」
「なんだか、子供食堂みたいですね。今、子供の貧困って結構問題になっていて、お金もないし、栄養のあるものを食べることができないという子供がたくさんいるんですよね、そういった子供たちに無料で食事を提供している場所が私の世界にはあるんです」
私はふと最近ニュースで目にした話を思い出して、アサトさんのやっていることと同化させていた。
「たしかに、うちは子供からはお金はとらないし、ボランティアレストランみたいなものだからね」
「今日はザクロ君は来ないの?」
まひるが同年代の友達らしく気軽に話し始めた。
「手伝いが終わったら来るって言ってたよ、まひるも毎日大変だなぁ」
「私は、お兄ちゃんのお手伝いが楽しいから手伝っているだけだよ」
まひるはこんなときばかり、アサトさんをお兄ちゃん呼びする。化けの皮を被るのが本当に上手だ。
「ザクロ君って誰?」
「ザクロってのはあたしの幼馴染で家が近所の男子なんだけどさ」
ライチが説明するとすぐに本人がやってきた。百聞は一見にしかずだ。
「こんにちはー」
水色の髪の毛をした男子がやってきた。もしかして、ザクロ君? やっぱり地毛なんだよね、水色の髪の毛なんて間近で見るのは初めてだ。
「はじめまして、僕の名前はザクロです」
八重歯がかわいい子供だ。こちらの世界の小学生くらいだろうか。
「いつも無料でおいしいご飯をありがとうございます」
手を合わせたザクロ君は、とても礼儀正しくて、ライチとは正反対のタイプだった。例えるならばザクロは優等生。ライチは不良生徒のようだ。
「ザクロ君にもおいしいトマトドリアを作ってあげるよ」
アサトさんとまひるの手際よさには驚くばかりだ。あっという間に、ジューシートマトドリアの出来上がり。横に添えた色とりどりのフルーツトマトとりんごもとってもおいしそう。栄養バランスもよさそうな一品だった。
「いただきます」
お辞儀をしてから、ザクロ君は食べ始めた。
「今日は僕たちに話があったのですよね。僕はあなたたちの心が読めるので、話さなくてもわかります。僕はあなたたちに従います。将来の国王様」
「ザクロ君はすごい能力を秘めていることは感じていたけれど、まさかここまでとはね」
アサトさんは予想以上の大物がいたことにすこし驚いていたようだった。
「基本は日本世界の食材を使っているんですか?」
ザクロ君は食材に興味があるらしく色々質問する。
「そうだね、日本の食材は天下一品だと思うよ。僕たちの世界の料理は見た目こそきれいだけれど、味は日本に比べたら劣ることは確実だから。だから、時の世界の住人は日本世界の食事が食べられるということで、僕たちのレストランを利用する者が多いんだ。僕たちの国にはないものばかりだからね」
ふと見ると、口のまわりにごはんつぶをつけたまま、ライチが完食していた。食べる速さがかなりの速度だ。飢えているのだろうか。そういえば、ここのお客さんは早食いで大食いが多い印象だ。おいしいからかもしれないが、そう言った人をここの空間が寄せ付けているのかもしれない。
「ごっちそうさまー」
やんちゃ全開で、ライチがお腹をさすっていた。満腹という至福の笑顔だった。もしかして、この子は貧しい家の子で、生活が大変なのかもしれない。そう感じた。ゆっくり丁寧にザクロ君がデザートの最後のひとくちを食べ終わると満足な表情を見せる。
「ごちそうさま」
ここを手伝っていて一番幸せな瞬間は食べたあとに見せる笑顔をみることだと思った。一番幸せを感じる瞬間だ。
「いただきます」から「ごちそうさま」に至るまでの時間。食べた人がいかに幸せになれるのか、それは食べることの尊さを感じる出来事だった。人はおいしさを感じることで満足感を得て、幸せになることができる。魔法ではないけれど、不思議な力だと感じた。
「この子たち、お腹空かせているのかな?」
「この国は、貧しいからね。国王がなんとかしなければならない問題なのだけれど、僕はできることをやっているよ」
「この子たちの親も仕事で忙しいの?」
「この子たちの親は片親だったり、仕事をしても裕福にはならないことが多くてね、大変な時代だよ。子供も仕事をしているよ。王室は裕福な暮らしをしているのにね」
何となく、苦労を知らないおぼっちゃまという印象だったアサトさんの優しさとボランティア精神が伝わってきた。人間として良い人だ、と思えたのだった。
「君たちは将来お金に困らない暮らしをしてみたくない?」
「そりゃ、お金がいっぱいあればうまいもん食えるからな」
「じゃあ、もしもお金に困らなかったらという未来を見てみない?」
アサトさんはもしもの世界を見せるつもりなのだろうか、記憶を奪うということだろうか? 不安な気持ちになる。
「噂の虹色ドリンクなら飲んでみたいぞ」
ライチがまだまだお腹に入るぞというポーズをとる。ザクロが優等生らしい意見を述べる。
「僕は母さんたち家族が困らない仕事に就きたいと思っているけれど、なかなか時給が低い仕事しかないからね、勉強はしているけれど進学は難しいと思っているよ」
「あなたたち、特別夢がないならば、将来、朝の王と夜の王になってみない?」
まひるが提案した。
「僕はここに来るまでに承諾する覚悟を決めてきました。特別な夢なんてまだ僕にはないですよ。大学で研究してみたいとは思っているけれど」
ザクロが述べる。
「大学で研究したあとに、朝の王になったら? 今の国王の後釜がアサトお兄ちゃんなの。国王が逝去したあとにアサトお兄ちゃんが国王になると朝の王の席が空くのよね」
能力の高さを評価したまひるがスカウトする。
「毎日食べるものに困らないなら、どんな仕事でもやってやるって」
ライチが力こぶを作るポーズをする。
「あなたたちが前向きに検討してくれるならば、記憶をなくす必要はないから虹色ドリンクは飲む必要なんてないのよ」
「うまいなら飲みたかったなぁ、虹色ドリンク」
ライチががっかりする。
「あれは、危険なドリンクなのよ。記憶がなくなるということはとても怖いことなのよ。できればお勧めはしないわ」
まひるが冷静に諭す。やはり頼りになるお姉さんのような存在だ。
「ライチには礼儀作法を1から訓練します。能力を伸ばして将来夜の王となるべく勉強しませんか?」
アサトさんは厳しい家庭教師のようなまなざしだった。
「オイラやってみる!!」
「じゃあ、近々ご家族にご挨拶に伺います。ライチ、オイラではなく、私と言う習慣を身に着けてくださいね」
きっとライチの指導には時間がかかりそうだけれど、アサトさんならばしっかりじっくり面倒を見そうだと思えたが、ライチが音をあげなければいい、それだけが気がかりだと思えた。
※【ジューシートマトドリア】
トマトを混ぜたごはんにとろーりチーズをかけたドリア。
カラフルなフルーツトマトとりんごを添えて。
カルシウムとビタミンが豊富。
【冷凍トマトのしゃりしゃりデザート】
冷凍トマトをすりおろしてはちみつをかけたひんやりデザート。