「時の国へ案内します」

 アサトさんが時の国へ行こうと提案してくれた。私を家族に会わせたいのかな。今日はお店を閉めて、時の国に行く日だ。しかし、付き合ってまだデートもしていないのに、おうち訪問ってやっぱりヨルトの忠告は正しいのかな? アサトさんのことを信じているし、大好きだけれど、時の国は踏み入れてはいけない場所なの?

「私が行ってもかまわないの?」
「もちろんです」
「すぐ帰ってこれるんでしょ?」
「大丈夫ですよ」

 すると、珍しくレストランにヨルトがやってきた。予知能力を使ったのかもしれない。

「アサト、ちょっと待て。時の国に一度連れていったら、夢香は簡単に帰れなくなるんだぞ。ちゃんと話したのか?」

 アサトさんは邪魔者が来たといった顔をして、時の国の銃を出した。弟なのに、弟には一番厳しいことをする。

「夢香は僕のものだ」
「簡単に帰れないって本当なの?」
「帰さないの間違いだったかもな」
 ヨルトがひとこと添える。

「夢香、僕を信じてください。さあ、一緒に行きましょう」

 アサトさんは良い人だけれど、ヨルトの真剣な表情はきっと本当のことを言っているのだろうと思った。嘘つきなのはアサトさん?

「アサトさん、帰ってこれないの?」
「そんなことはありませんよ、すぐ帰します」

 光でできた短剣をヨルトがアサトさんに向かって投げつけた。実の兄に向って攻撃するヨルト。しかし、アサトさんはそれをかわし、ヨルトに向かって投げ返す。そして、銃口を向け、
「邪魔をするな、時の国のためだ」と言い放った。

 そして、ヨルトも拳銃を構えるとアサトさんはヨルトの足元に銃口を向けた。まひるがアサトさんの銃口の向きを少し変えて引き金をひかせた。アサトさんの手の上から小さな指で引き金を引いたのだ。

 とはいっても弾ではなく光だけれど、とても速いスピードで銃口から光は放たれた。きっと当たったら大けがするだろうという威力を感じた。足には当たらないように、足元近くにアサトさんは撃とうとしていたのだと思う。でも、まひるが銃口の角度をかえてヨルトの足をめがけて撃ったのだ。

 予想外のまひるの行動で、ヨルトの左足は光によって負傷してしまった。流血している。なぜ、兄妹なのにそんなことができるの? まひるちゃんはまだ10歳だよね。

「まひる、何をする?」
 アサトさんが睨んだ。

「アサトがなかなか引き金を引かないから、手伝っただけ」
「僕はヨルトの足を狙うつもりはなかったんだ」
「ぐずぐずしている兄のために私が手伝っただけ。これで追ってこれないでしょ。さあ、邪魔者はいない、夢香行こう」
 まひるが冷酷な顔で誘ってきた。

「嫌よ、ヨルト、大丈夫?」

 私の中で一抹の迷いが消えた瞬間だった。ヨルトの傍にかけよった。まひるはヨルトを撃っても平然としていた。国のためなのか知らないけれど、身内に怪我を負わせるなんて最低だ。アサトさんもまひるもグルなのだ。優しい顔はまやかしだったのかもしれない。ヨルトの元にかけよった。

「夢香、言うことを聞かないと、ヨルトの右足も撃つよ。だから、こちらへ来て」

 まひるは丁寧な口調で残酷なことを言う。そして、まひるは拳銃をヨルトにむけた。ヨルトがまひるの拳銃めがけて撃ち返す。するとまひるが持っていた拳銃は私のほうに転がってきた。私が銃を拾い、銃を持つと、使えないはずの私の手から光が放たれた。それは拳銃よりももっと大きな光で、部屋全体を照らす。これは……?

「夢香、やっぱりただものではないな。時の力を持っているのか」
 まひるが言った。
 
 アサトさんはまひるに問いただした。
「君は何者だ? まひるにとりついているなら、出てこい」

「とりついているのではなく、姿を変えているだけよ。まひるは本当は18歳の女性なの。アサトと同じ歳よ。でも、母が再婚するときに小さい子供として国王の娘になっただけ」

 意外なまひるの回答に私たちは口を開いたままだったと思う。

「意外とみんな鈍感だし、誰一人として見破ることができないなんて、時の国の王室は無能の集団よね」

 そう言うと、まひるの身長は急に大きくなり、成長した姿を見せた。その姿は、気が強い美人という感じで、大人びたできる女という雰囲気があった。

「普段、私は10歳として生活をしているけれど、時の国の内情を調べるには子供のほうが好都合だったのよ。私の力は変化の力と時を動かす力が代表的な能力よ」

「父に報告する」
 アサトさんがまひるに忠告する。

「国王に話したら虹色ドリンクを作る人がいなくなっちゃうね。虹色ドリンクは時を動かす力がないとだめなのよね。私は時の国の味方よ。国の立て直しの協力をするし、昼の女王として君臨できる能力もある。他にあの国に能力ある人材なんていいないでしょ?」
「母親に子供のふりをしろと言われたのか?」 
「最初は油断させて内情を調べるためには子供のほうがやりやすいからね。でも、王室はざるだったよ。何も国民のためにできていないし、展望もないし、能力も低い。国王は私の母が超能力を持っているということで再婚したんだよ、要は有能な人材がいないってこと。いずれ本当の年齢を国王にも明かすつもりよ」

 まひるは気丈で大人びた容姿だ。手足が長く、冷酷に満ちた表情をしていた。

「ヨルト、あなたは夜の王になる気がないの?」
「ないよ」
「じゃあ、新しい候補を探すわ。こんな無能は必要ない」

 まひるが切り捨てる。冷酷で切り捨てることを何とも思わない女性なのだろう。

「ヨルトが嫌なら他を探す。本当にそれでいいのか?」

 アサトさんも確認する。でも、アサトさんもまひるもどうして怪我よりも別な話を優先させるのだろう。もっと身内のケガを心配するべきことなのに。優先するのは時の国のことばかり。ヨルトがかわいそうになってしまう。

 ヨルトは痛そうな顔をしながら強い口調で言い放つ。
「おれは日本人として生活するよ」

「わかりました。一度まひると国に戻ります。ヨルト、悪かった。これを使ってください。薬草の力を剣の先に転移させている。剣を足に当てると傷が治ります」

 そう言うと、薬草の短剣をヨルトのほうに投げてきた。アサトさんとまひるは消えた。ヨルトと私は店内にいたはずなのに、気づくと空き地の土の上にいた。ヨルト、大丈夫? ヨルトの肩を支え、引きずる足を支える。包帯を巻く代わりに、ハンカチで止血していたのだが、見る見るうちに剣から放たれる光がヨルトの足の傷を治した。すごい文明だと思った。すぐ治ることがわかっていたから二人は冷静だったのかもしれない。日本よりもずっと能力や文明は高いのかもしれない。でも、貧しく未来のない国なんて……。