手作りチョコというものを生まれて初めて挑戦することにしてみた。料理上手なアサトさんの心をつかむには手作りしかない!! そう思って一念発起してチョコレートを作ってみた。大きなハートのチョコレート。さすがにLOVEとか好きなんて言葉をかいたりはしないけれど、さりげなく気持ちを伝えたい、そう思った。気持ちに気づいてもらえるかもしれないと思っている自分もいた。
少し、チョコレートが余ってしまった。仕方ない、小さなチョコレートをヨルトに作るか。義理チョコだけど。アサトさんには、帰り際にまひるがいないタイミングを見計らって渡すことに成功した。しかし、料理上手なアサトさんに下手な初心者手作りを渡すのは気が引ける。
「アサトさん、これ、チョコレートです。食べてください」
「わあ、うれしいな、大切に食べるよ」
いつも通り優しい笑顔のアサトさん。緊張感のある鋭い表情とは打って変わって別人のようだった。
「実は夢香に話したい事があるんだ。一度一緒に僕たちの国に来てほしい。そして、国王と会ってほしいんだ」
思いもよらぬ提案に驚きが隠せない。どうしたらいいのかな? 行くべき?
「僕は夢香のことを好きだと思っているんだ」
え……? バレンタインに告白? それって女子からするものよね? でも、アサトさんとしては付き合いたいという意味なのかな? 私が恋愛経験がなさすぎるからなのかもしれない。男心ってわからなすぎる。やっぱり男の知り合いに聞くしかないかな……ってヨルトくらいしかいないし。
「付き合ってほしい」
「……少し考える時間をください」
「では、近々時の国に一度遊びに来ませんか?」
顔を赤らめながら帰宅することにした。だって、まさかバレンタインデーにあちらから付き合おうと言われるなんて。どうしよう。心を躍らせながらそわそわした気持ちになる。もちろん、今すぐにOKしてもいいのだけれど、少しじらしたほうがいいと聞いたことがあったので、ここはあえて返事を先延ばしにしてみた。
向かう先はアンティーク古書店だ。ヨルトに自慢しちゃおう。あいつはまだ恋人なんていないだろうし。私は、別に美人でもないけれど、告白された。夢みたい。こんなに素敵な彼氏ができたら、絶対自慢したくなる。友達がうらやましがること必須だよね。
アサトさんには驚くほどさりげなく渡すことができたのだが、ヨルトの場合、なんて言って渡そう。もしかして、俺のこと好きなの? なんてヨルトは冗談で言ってきそうだし。でも、私は絶対に好きじゃないし。というか今日、本命に告白されたし。余ったからついでに作ってみたとでもいっておくか、そう思った。
いつも通り重い扉を押しあけながら店にはいる。さりげなくヨルトに近づく。いつも通りの挨拶をする。いつも通りに店内には客はいないし、アンティーク独特の香りが漂う。
「アサトにはチョコレート渡したのか?」
思いがけずあちらから言ってくるとは、さてはヨルト、バレンタインを意識しているモテない男子って感じね。
「どうせヨルトのことだから、ひとつもチョコレートもらってないかと思って」
すると、店の奥に視線を移すとチョコレートの山があった。
私はその量に驚いてしまう。
「なにあのチョコレートの山」
「あれは、店のお客さんや同じ高校の女の子からもらったんだ、バレンタインだからね」
当たり前のように山積みになったチョコレートの説明をする。この男、やはりモテるの? 思わず、手作りのチョコレートを鞄の奥に押し込んだ。あんなにチョコレートがあったらこれ以上食べられるはずもないし、喜びどころか迷惑だろう。しかも、私からもらっても微妙な顔をされるだけに違いない。
「アサトさんには渡したよ。喜んでくれた」
「よかったな」
我がことのように喜ぶヨルト。
「ヨルトこそ、本命からチョコレートもらったの?」
「付き合おうって言われたけど、こんなにたくさんの人とつきあえないから、本命は作ってないよ。だって罪だろ、これだけたくさんいるかわいい子の中から選ぶなんて俺には無理だ」
なにその、芸能人みたいなモテて当然な物言いは少しむかつく。
「ヨルトがモテるなんて、信じられないけどね」
「夢香よりはモテると思うけど」
冷めた表情で当然のように言う余裕のヨルト。
「実は、アサトさんに好きって言われたの。付き合おうって」
ヨルトは突然の恋話に困惑気味だったが、祝福してくれた。
「おめでとう。まさか、アサトが夢香を選ぶとはな。だって、アサトって基本心開かないからさ。夢香ならば兄貴のハートを撃ち抜くことができるかもって期待していたしな」
「まだ返事はしていないけれど……アサトさん、最近恋人いなかったの?」
「作らないタイプだよな、警戒心強いし。だから身内で王室を固めたいのだろうな。でも、俺は夜の王になることをちゃんと断るつもりだ」
「ヨルトは自分の意志がしっかりしているね。……ヨルトは気になる子とかいなかったの? チョコをくれた人の中で」
「いない。俺って恋愛に無関心なんだよな」
ヨルトの透き通った青い瞳がきれいで、女子の心を自然とつかむわけがわかった。
「夢香は俺のためにチョコレートを作ってくれないの?」
もしかして、私が作ったこと予知能力で読んでるのかな? ばれたのならば仕方ない。
「材料あまったから、一応作ったけど、あんなにもらったんだったらいらないかなって。チョコレート食べ過ぎで鼻血でるよ」
「余り物には福があるって言うからな。めっちゃほしい」
手を出して催促される。まるで餌をもらう犬みたいに。
「嘘ばっか」
「じゃあ、一応」
失礼な物言いもヨルトにならばできる関係だった。
「かわいいラッピングじゃないか、いただきます、おねえさま」
「なによ、おねえさまって」
「だって、アサトと結婚したらお前は義理の姉になるわけだからな。弟には優しくしろよ」
「バカなこと言ってないで、他の女の子のチョコレートもちゃんと食べなよ。食べ過ぎてデブになってフラれるかもしれないけれどね」
「じゃあデブになって行き場のないときは、夢香拾ってよ」
「何よ、その子犬みたいな嘆きは」
見下ろしたヨルトは子犬みたいになついていてかわいくも思えた。
その場で開けて、嬉しそうに眺めるヨルトが全く読めなかった。こんなにたくさんの女の子からチョコレートをもらっているくせに。期待させるみたいな行動は辞めてほしい。期待って――別に何かを期待しているわけでもないけれど。
「ホワイトデー、きっとアサトのお返しは倍返しだと思うぞ、楽しみにしてろよ」
「たしかにアサトさんはすごく料理上手だからね。そういえば、ヨルトは料理ってできるの?」
「料理は結構得意だけれど、チョコレートは手作りで作ったことはないけどな」
「お返しは期待していないから」
「お返しは俺の愛かもしれねーな」
「バカなこと言わない」
そんなやりとりで顔色一つ変えない慣れた様子のヨルトが少しうらやましくもあり、経験豊富なのかと勘繰ってしまった。私なんかの手作りで笑顔を見せるヨルトの本心が全く見えなかった。アサトさんとは逆で表情が豊かだからこそ読めないのがヨルトだ。
少し、チョコレートが余ってしまった。仕方ない、小さなチョコレートをヨルトに作るか。義理チョコだけど。アサトさんには、帰り際にまひるがいないタイミングを見計らって渡すことに成功した。しかし、料理上手なアサトさんに下手な初心者手作りを渡すのは気が引ける。
「アサトさん、これ、チョコレートです。食べてください」
「わあ、うれしいな、大切に食べるよ」
いつも通り優しい笑顔のアサトさん。緊張感のある鋭い表情とは打って変わって別人のようだった。
「実は夢香に話したい事があるんだ。一度一緒に僕たちの国に来てほしい。そして、国王と会ってほしいんだ」
思いもよらぬ提案に驚きが隠せない。どうしたらいいのかな? 行くべき?
「僕は夢香のことを好きだと思っているんだ」
え……? バレンタインに告白? それって女子からするものよね? でも、アサトさんとしては付き合いたいという意味なのかな? 私が恋愛経験がなさすぎるからなのかもしれない。男心ってわからなすぎる。やっぱり男の知り合いに聞くしかないかな……ってヨルトくらいしかいないし。
「付き合ってほしい」
「……少し考える時間をください」
「では、近々時の国に一度遊びに来ませんか?」
顔を赤らめながら帰宅することにした。だって、まさかバレンタインデーにあちらから付き合おうと言われるなんて。どうしよう。心を躍らせながらそわそわした気持ちになる。もちろん、今すぐにOKしてもいいのだけれど、少しじらしたほうがいいと聞いたことがあったので、ここはあえて返事を先延ばしにしてみた。
向かう先はアンティーク古書店だ。ヨルトに自慢しちゃおう。あいつはまだ恋人なんていないだろうし。私は、別に美人でもないけれど、告白された。夢みたい。こんなに素敵な彼氏ができたら、絶対自慢したくなる。友達がうらやましがること必須だよね。
アサトさんには驚くほどさりげなく渡すことができたのだが、ヨルトの場合、なんて言って渡そう。もしかして、俺のこと好きなの? なんてヨルトは冗談で言ってきそうだし。でも、私は絶対に好きじゃないし。というか今日、本命に告白されたし。余ったからついでに作ってみたとでもいっておくか、そう思った。
いつも通り重い扉を押しあけながら店にはいる。さりげなくヨルトに近づく。いつも通りの挨拶をする。いつも通りに店内には客はいないし、アンティーク独特の香りが漂う。
「アサトにはチョコレート渡したのか?」
思いがけずあちらから言ってくるとは、さてはヨルト、バレンタインを意識しているモテない男子って感じね。
「どうせヨルトのことだから、ひとつもチョコレートもらってないかと思って」
すると、店の奥に視線を移すとチョコレートの山があった。
私はその量に驚いてしまう。
「なにあのチョコレートの山」
「あれは、店のお客さんや同じ高校の女の子からもらったんだ、バレンタインだからね」
当たり前のように山積みになったチョコレートの説明をする。この男、やはりモテるの? 思わず、手作りのチョコレートを鞄の奥に押し込んだ。あんなにチョコレートがあったらこれ以上食べられるはずもないし、喜びどころか迷惑だろう。しかも、私からもらっても微妙な顔をされるだけに違いない。
「アサトさんには渡したよ。喜んでくれた」
「よかったな」
我がことのように喜ぶヨルト。
「ヨルトこそ、本命からチョコレートもらったの?」
「付き合おうって言われたけど、こんなにたくさんの人とつきあえないから、本命は作ってないよ。だって罪だろ、これだけたくさんいるかわいい子の中から選ぶなんて俺には無理だ」
なにその、芸能人みたいなモテて当然な物言いは少しむかつく。
「ヨルトがモテるなんて、信じられないけどね」
「夢香よりはモテると思うけど」
冷めた表情で当然のように言う余裕のヨルト。
「実は、アサトさんに好きって言われたの。付き合おうって」
ヨルトは突然の恋話に困惑気味だったが、祝福してくれた。
「おめでとう。まさか、アサトが夢香を選ぶとはな。だって、アサトって基本心開かないからさ。夢香ならば兄貴のハートを撃ち抜くことができるかもって期待していたしな」
「まだ返事はしていないけれど……アサトさん、最近恋人いなかったの?」
「作らないタイプだよな、警戒心強いし。だから身内で王室を固めたいのだろうな。でも、俺は夜の王になることをちゃんと断るつもりだ」
「ヨルトは自分の意志がしっかりしているね。……ヨルトは気になる子とかいなかったの? チョコをくれた人の中で」
「いない。俺って恋愛に無関心なんだよな」
ヨルトの透き通った青い瞳がきれいで、女子の心を自然とつかむわけがわかった。
「夢香は俺のためにチョコレートを作ってくれないの?」
もしかして、私が作ったこと予知能力で読んでるのかな? ばれたのならば仕方ない。
「材料あまったから、一応作ったけど、あんなにもらったんだったらいらないかなって。チョコレート食べ過ぎで鼻血でるよ」
「余り物には福があるって言うからな。めっちゃほしい」
手を出して催促される。まるで餌をもらう犬みたいに。
「嘘ばっか」
「じゃあ、一応」
失礼な物言いもヨルトにならばできる関係だった。
「かわいいラッピングじゃないか、いただきます、おねえさま」
「なによ、おねえさまって」
「だって、アサトと結婚したらお前は義理の姉になるわけだからな。弟には優しくしろよ」
「バカなこと言ってないで、他の女の子のチョコレートもちゃんと食べなよ。食べ過ぎてデブになってフラれるかもしれないけれどね」
「じゃあデブになって行き場のないときは、夢香拾ってよ」
「何よ、その子犬みたいな嘆きは」
見下ろしたヨルトは子犬みたいになついていてかわいくも思えた。
その場で開けて、嬉しそうに眺めるヨルトが全く読めなかった。こんなにたくさんの女の子からチョコレートをもらっているくせに。期待させるみたいな行動は辞めてほしい。期待って――別に何かを期待しているわけでもないけれど。
「ホワイトデー、きっとアサトのお返しは倍返しだと思うぞ、楽しみにしてろよ」
「たしかにアサトさんはすごく料理上手だからね。そういえば、ヨルトは料理ってできるの?」
「料理は結構得意だけれど、チョコレートは手作りで作ったことはないけどな」
「お返しは期待していないから」
「お返しは俺の愛かもしれねーな」
「バカなこと言わない」
そんなやりとりで顔色一つ変えない慣れた様子のヨルトが少しうらやましくもあり、経験豊富なのかと勘繰ってしまった。私なんかの手作りで笑顔を見せるヨルトの本心が全く見えなかった。アサトさんとは逆で表情が豊かだからこそ読めないのがヨルトだ。