「こんにちは」
ちょっとハスキーな色気のある声の持ち主が来店した。美人なお姉さんだ。この人は誰だろう? そう思いながらも聞けずにいると。
「こちら、新人さん? 珍しいね、こちらの人間がこのレストランの手伝いをするなんて」
二重瞼で長いまつげが上を向いている。きっとマスカラで重力に逆らわせているのだろう。20代前半くらいのお姉さま。
「お腹空いたからパスタ作ってよ、アサト」
アサトさんといい感じの関係なのかな? 呼び捨ての距離感。ちょっと不安になる。年上のお姉さまの経験値に太刀打ちはできそうもない。
私の心配を知ってか知らぬか、アサトさんが目の前の女性の解説をはじめた。
「こちら美織さん。日本の世界で不動産関係や法律関係で、お世話になっているんだ。彼女は日本と時の国のハーフで、僕らの世界の橋渡し役としてとても世話になっている恩人なんだ。僕の父とも知り合いだし、お店の常連さんだよ」
「国王様と?」
「そうだよ、美織さんあってこその、こちらでの生活だから」
「まあね、彼は私のおかげでここで生活できるんだから感謝してよね。その代わりおいしい食べ物を無償で提供してもらうっていう契約なのよね。パスタ、食べたいなぁ」
甘えたような声でささやく。だいたいの男は、これで落ちるのではないだろうか?
「了解しました。レモンのクリームパスタなんていかがですか?」
「いいねぇ、ここのメニューははずれがないから、超楽しみっ」
ご機嫌な美織さんを横目にアサトさんがパスタ作りを始めた。
「レモンは美織さんのイメージなのよねー」
まひるが美織さんに言った。
「私がレモン?」
「ちょっとすっぱいけれど、さわやかなあと味っておにーちゃんが言っていたよ」
魅惑的な女性、美織さんが笑う。
「自分では山椒とか唐辛子じゃないかって思ってたけど。ぴりっと辛いところがあるでしょ?」
「今度、山椒や唐辛子を使ったメニュー考案しますよ」
アサトさんが負けじと提案する。
「本当に、アサトは何でも作ることができる器用な男ね、そういうところ、好きよ」
あぁ、今、さらっと好きって言ったけれどやはり、そういう関係なのかな? アサトさんは、年上が好きなのかな?
「大丈夫よ、新人さん。私たちは、そういう関係じゃないから」
私の心を読んだかのように、ていねいに否定する美織さん。少しほっとしたが、心が読めるのだろうか? 時の国との橋渡しをしているようなので、普通の人ではないことは確かだ。
ゆでたパスタはもちもちしていて、湯気がたっていた。見た感じで、弾力があるおいしいパスタだということは、素人目にもわかった。黄色い色をした自家製のクリームにはレモン果汁が入っていて、その上にアスパラや蒸し鶏が飾られている。栄養バランスもよさそうだし、見た目にも鮮やかだった。
「レモンパスタとレモン酢ソーダできあがりました」
「どうぞ、召し上がってください。日頃の感謝を込めて作りました、美容と健康のためにレモン酢をソーダで割りました。ソーダ水も日本で評判が高いものを使用しています」
「あら、レモン尽くしね。美容にこだわりがある私にはうれしいドリンクね。たしかに酸っぱいところは私らしいかも。いただきます」
アサトさんはスキがない。不思議オーラをまとった優しさと器用さと何でもできる、そんなイメージがあった。それは、本当の心をあまり出さない、営業スマイルしか見せない。そんなふうにも感じられる人だった。逆に言えば、普段の彼が見えなかった。
※【レモンクリームパスタ】
レモン果汁で作られたクリームをかけたパスタにアスパラと蒸し鶏を添えて。
【レモン酢ソーダ】
レモン酢をソーダで割った飲み物。
ちょっとハスキーな色気のある声の持ち主が来店した。美人なお姉さんだ。この人は誰だろう? そう思いながらも聞けずにいると。
「こちら、新人さん? 珍しいね、こちらの人間がこのレストランの手伝いをするなんて」
二重瞼で長いまつげが上を向いている。きっとマスカラで重力に逆らわせているのだろう。20代前半くらいのお姉さま。
「お腹空いたからパスタ作ってよ、アサト」
アサトさんといい感じの関係なのかな? 呼び捨ての距離感。ちょっと不安になる。年上のお姉さまの経験値に太刀打ちはできそうもない。
私の心配を知ってか知らぬか、アサトさんが目の前の女性の解説をはじめた。
「こちら美織さん。日本の世界で不動産関係や法律関係で、お世話になっているんだ。彼女は日本と時の国のハーフで、僕らの世界の橋渡し役としてとても世話になっている恩人なんだ。僕の父とも知り合いだし、お店の常連さんだよ」
「国王様と?」
「そうだよ、美織さんあってこその、こちらでの生活だから」
「まあね、彼は私のおかげでここで生活できるんだから感謝してよね。その代わりおいしい食べ物を無償で提供してもらうっていう契約なのよね。パスタ、食べたいなぁ」
甘えたような声でささやく。だいたいの男は、これで落ちるのではないだろうか?
「了解しました。レモンのクリームパスタなんていかがですか?」
「いいねぇ、ここのメニューははずれがないから、超楽しみっ」
ご機嫌な美織さんを横目にアサトさんがパスタ作りを始めた。
「レモンは美織さんのイメージなのよねー」
まひるが美織さんに言った。
「私がレモン?」
「ちょっとすっぱいけれど、さわやかなあと味っておにーちゃんが言っていたよ」
魅惑的な女性、美織さんが笑う。
「自分では山椒とか唐辛子じゃないかって思ってたけど。ぴりっと辛いところがあるでしょ?」
「今度、山椒や唐辛子を使ったメニュー考案しますよ」
アサトさんが負けじと提案する。
「本当に、アサトは何でも作ることができる器用な男ね、そういうところ、好きよ」
あぁ、今、さらっと好きって言ったけれどやはり、そういう関係なのかな? アサトさんは、年上が好きなのかな?
「大丈夫よ、新人さん。私たちは、そういう関係じゃないから」
私の心を読んだかのように、ていねいに否定する美織さん。少しほっとしたが、心が読めるのだろうか? 時の国との橋渡しをしているようなので、普通の人ではないことは確かだ。
ゆでたパスタはもちもちしていて、湯気がたっていた。見た感じで、弾力があるおいしいパスタだということは、素人目にもわかった。黄色い色をした自家製のクリームにはレモン果汁が入っていて、その上にアスパラや蒸し鶏が飾られている。栄養バランスもよさそうだし、見た目にも鮮やかだった。
「レモンパスタとレモン酢ソーダできあがりました」
「どうぞ、召し上がってください。日頃の感謝を込めて作りました、美容と健康のためにレモン酢をソーダで割りました。ソーダ水も日本で評判が高いものを使用しています」
「あら、レモン尽くしね。美容にこだわりがある私にはうれしいドリンクね。たしかに酸っぱいところは私らしいかも。いただきます」
アサトさんはスキがない。不思議オーラをまとった優しさと器用さと何でもできる、そんなイメージがあった。それは、本当の心をあまり出さない、営業スマイルしか見せない。そんなふうにも感じられる人だった。逆に言えば、普段の彼が見えなかった。
※【レモンクリームパスタ】
レモン果汁で作られたクリームをかけたパスタにアスパラと蒸し鶏を添えて。
【レモン酢ソーダ】
レモン酢をソーダで割った飲み物。