やっぱりやっかいな客だ。年の瀬に妖怪を自称するような輩が、まともな訳がない。酒の臭いもしないから、普段からこれなのだろう。「わしな、妖怪やねん」などと言って、おざなりにも対応してくれるのはキャバクラ嬢だけだ。

 「ジブン、疑ってるやろ」
 「そんなことないですよ」
 「それ、絶対疑ってる目ェやん」

 疑ってはいないが、確信はしている。妖怪ではなく、ただの変人だ。ある意味、妖怪よりも質の悪いやつだ。

 「まあ、ええわ」

 このまま妖怪話を続けられてもたまらないので、俺は会話を変えることにした。

 「で、どちらに行かれるんです?」

 言われるまま車を進めてはいたが、俺は行く先を知らない。おっさんは前を見ながら答えた。

 「ああ、うん。長嶋君の家や」
 「そのお友達の家はどちらなんですか?」

 すると、自称座敷わらしのおっさんは急にこちらを向いて、でかい声で言った。

 「なんでわしが長嶋君と友達やねん!そう見えるっちゅうんかい!」

 妙に嬉しそうだ。下手に刺激しても面倒臭いだけだろう。

 「見える?なあ、そう見える?」

 見えるもなにも、俺は長嶋君なる人を知らない。だが、とりあえずここは話を合わせておいた方がよさそうだ。

 「まあ、見えますよ。それはもう」
 「ほんまかい!ほんまに言うてるんかいな!」

 おっさんは一人でなにやら照れたあと、俺を見て呟いた。

 「まあな。わし、結構そういうとこあるねん」

 もう相手にしないと決めた。