「――それで、あの子はどうするんだ?」
「どうするって、放っておくわけにはいかないわよ」

〝三坂家〟という表示を確認して、控室の扉を開けて中に入る。靴を脱ぎ、さらにその奥の引き戸を開けようと手をかけたところで、漏れ聞こえた会話に動きを止めた。

「うちは無理よ。子どもが三人もいるのよ。主人だっていい顔しないわ」
「俺のところだって、息子が四月から大学生になるんだ。余裕なんてない」

 盗み聞きなどよくないのに、つい聞き耳を立ててしまう。離れようにも、足が根を張ったように動かない。

 話し合いの内容など、今の言葉だけで察しがつく。ひとりになってしまった私を、誰が引き取るかでもめているのだ。

 歓迎する声はひとつもない。それが当然だと、私にもわかっている。同情だけで、他人を預かるのはあまりにも負担が大きいのだから。
 おまけに、これまでそれほど密な親戚づきあいをしてきていない。節目ごとに集まるぐらいで、正直、名前を思い出せない人もいる。

「でも、兄さんたちの保険金がいくらかあるんじゃない?」
「それであの子に関する費用は賄えるかもしれないが、それほど交流のなかった子どもの面倒を見るのは簡単じゃない。それに、うちには年頃の息子もいる」

 中には、飛行機の距離に住んでいる親戚もいる。配偶者を同伴していない人もおり、許可なく決められる話でもない。

 自分がもっと大人だったら、多少の手助けはお願いするだろうが、多大な迷惑をかけはしなかっただろう。まだ十六歳という年齢は、子どもとも大人ともいえない。未成年という、あまりにも無力で手のかかる存在だ。

「せめて高校ぐらいは出してやるべきだろうし、その先もとなると……」

 当事者として、この場に顔を出して頭を下げるべきだとわかっている。けれど、どうしても中に入る勇気が持てず、その場で立ち尽くしていた。