運転席と助手席の男性ふたりと、後部席の私たち。それぞれ小声で話しながら道を急いだ。
途中、パーキングエリアと道の駅でお手洗い休憩をして、出発してから4時間。
夜の10時半頃に見覚えのある旅館に到着した。
「啓太さん……」
駐車場から旅館の玄関の前に移動して、私は足が動かなくなる。
「覚えてるか?」
「もちろんですよ……」
車から私の荷物も降ろして持ってきてくれた啓太さんの腕を掴む。
忘れるわけがない。あの時は、部活の合宿だったよ……。
「皆さんお疲れさまでした。啓太くん、思ったより早かったのね」
「道路自体は空いてたんで。早めに着きました」
啓太さんとお話ししていた旅館の女将さんは、私たちに向き直ってくれた。
「遠いところ、ようこそお越しくださいました。お部屋とお風呂の準備は出来ておりますので、どうぞこちらへ」
啓太さん、結花先生、陽人先生のあとからついていく私。
フロントでチェックインで宿泊者名簿に名前を書くとき、女将さんは笑ってくれた。
「花菜ちゃん、いらっしゃい。お久しぶりね。今度は偽名じゃなくて本名で書いていいんだからね」
うん、あのときとは違う。もう私の本名を書いていいんだ。
「はいっ。またお世話になります。結花先生と私、ここに来るって知らされてなかったんですよ?」
「まぁっ!」
「ま、クリスマスイブにミステリーツアーってのもありじゃないか? ここなら花菜だって反論はないだろ?」
「それはそうなんですけど……」
うん。確かに目的地がここだったら、私も何も言えない。
でも、それならもう少しヒントをくれても良かったんじゃない?
前に来たときは高校2年生の夏休みだった。
そう、あの時の服は身長の伸びが止まった私にはまだ現役。さすがに正反対の真冬に半袖を着ることはできないけれど、それだけじゃなくいろいろと用意することもできたと思ってしまうからね。