「ママ、行ってきます!」
「車に気をつけてね!?」
今日から高校生、私が当時着ていたデザインとあまり変わらないブレザー姿の女の子が玄関で新しい靴を履いている。
「パパと一緒だから大丈夫」
「それもそうか……。でもダメダメ! パパは車にひかれたことがあるから」
そうそう。忘れてないよ。あの日の電話のショックは強烈だったんだから。
「まだそれ言うか?」
「だって事実だもん。その時に私を泣かせたのは誰?」
「はいはい。あのサンダルまだ持ってるんだもんなぁ」
「あれは捨てられません。私の棺桶に入れてもらうんだから」
「花菜の棺桶、きっとふたが閉まらないぜ」
「朝からなんちゅう話をしてるんだよ。惚気てんのか縁起の悪い話をしてるんだかよくわかんねぇ。うちの両親は、まったく……」
啓太さんのぼやきと息子のツッコミにうなずきながら、玄関で新しい鞄を持って立ち上がった結菜の襟元のリボンを直してあげる。
「まさか、私と同じ学年色とはねぇ」
「本当になぁ。昔の花菜と変わらない。そこは親子だよなぁ」
啓太さんが感慨深げに結菜を見て笑った。
「こんなことなら、花菜の制服取っておくんだったなぁ」
「ううん。同じように見えるけど、少しずつデザイン変わってる。あの私の制服は珠実園の子が次の3年間使ってくれたよ」
そうだよ。私が卒業してからもう何年経っているのか……。それでも私があの当時3年間着ていたのだから変わっているところはすぐに分かる。
「ママは入学式に間に合うの?」
「啓人が学校に行ったらすぐに出るから、先に行っていて? 保護者証は頂いているからちゃんと中には入れるわ」
「はぁい。じゃあパパ行こう?」
二人を送り出して、今度は中学2年になった啓人を学校に送り出す。今日から普通授業だから給食もあるとか。
それなら入学式のあとが長引いても大丈夫。
「啓人、今日はお姉ちゃんの入学祝いするから、早く帰ってきてね。結花さんたちも来るから」
「はーい。さっきの事も結花さんに報告だな。じゃあ母さん行ってきます」
「えー、それ言ったらまた結花さんに怒られちゃう……。いってらっしゃい」
どちらかといえば幼い姉と、いつも年上に見られる弟。
この姉弟に私まで加わってしまうと、見た目はともかく誰が一番年上だか分からない。
背丈も中学3年の結菜を同じ学校1年の啓人が今年の年明けに追い越してしまった。
そんな結菜を、昔の私と一緒だと笑う啓太さん。
そうだったよ。高校1年生から背はほとんど伸びなくて、採寸したときに少し長めにしてあったスカート丈が卒業式まで同じだったんだよね……。
「さて、追いかけなくちゃ」
お部屋の戸締りを終わらせ、アイボリーのワンピースに紺色のジャケットをあわせて、私は春の光の中に飛び出した。