日曜日、私は児童ホールには出ずに職員室でその子の到着を待っていた。

 先日連絡したとき、今日の午前中にアパートの鍵を返してから来ると教えてくれたっけ。

 荷物を持っていることも想定できたから、タクシーを使っても構わないと伝えておいた。

 やっぱり、図書館でいつも人と触れている仕事をしているから、電話越しの声はしっかりしている。でも、その背後をちゃんと理解してあげないと、私たちの仕事は務まらない。

 一人ひとりの心にどれだけ寄り添えるか、それも最初の数日が勝負だ。

「結花ちゃん、あの子よね?」

 図書室のレースのカーテン越しでも分かる。

「はい? あ、ほんとだ。じゃぁ、茜音先生、お願いしますね」

「任せといて」

 あの様子だと、電車とバスで来たのね。自分に厳しいと聞いていたけれど、そんなところにもあらわれているよう。

 キャリーケースをひとつだけ引いてきた高校の制服姿の女の子が門を入ってきた。

 待ち構えていたのを悟られないように、飛び出していきたいのをじっと我慢する。

「失礼します」

「はい。あらっ? あなたは……」

 わざとらしかったかな。

「あの……、今日からお世話になります……。松本花菜です……」

「申し遅れました。児童福祉施設珠実園、支援員の小島です。松本さん、どうぞこちらへ」

 私の方が動揺してしまいそうなのをこらえて、園長室に連れていく。

 あとは園長の松木先生ご夫妻にバトンタッチすれば大丈夫。


「松本さん、こちらの小島結花先生が普段のお世話を担当させていただきます。なんでも相談して構いませんからね。本当にベテランの先生ですから」

「はい、ありがとうございます」

 園長室から松本さんを連れて、彼女の部屋となる個室へ案内する。

「広いお部屋でなくてごめんなさいね。プライベートは保てると思うけど」

「そんな、心配いただいてありがとうございます」

 思ったとおりだ。声だけじゃわからない。

 この数日間、お葬式もあったものね。やっぱり疲れているのだろう。この無口ぶりは、まだ警戒してしまっている。それは仕方ない。


「もう少しすると、お昼ご飯ね。一緒に食べに行きましょうか?」

「いいんですか?」

「うん、だってあなたはもう私たちの家族なんだもの。もっと自然にしていていいのよ?」

 制服から私服に着替えてもらって、近所の説明をしながら、国道沿いのファミリーレストランに入った。

「好きなものを頼んでね。デザートもいいよ?」

「い、いいんですか?」

「もちろん!」

 ミックスフライの定食を平らげたあと、嬉しそうにチョコパフェを食べている姿は、どこにでもいる高校生の女の子だよ。伝え聞いている境遇だけで判断してはいけない。


 図書館で見ていたときから、落ち着いている子だなと思っていたけど、近くで見ると逆に幼い顔つきまで当時の私と同じじゃない。

 茜音先生が、私にしかこの役を務められないと言っていた意味が少しずつ実感として湧いてくる。

 大丈夫だよ。今は傷ついて疲れてしまっているかもしれない。でも、必ず元気にしてみせると心の中で誓った。