「いいお湯でしたぁ」
「またあとで入りに行かないともったいないね」
「もちろんです。また行きます」
私と結花先生がお風呂上がりでお部屋に戻ると、食事の用意が隣の部屋に一緒にして出来ているという。
「うわー、これどうしたの?」
「四人分にしちゃ豪華すぎない?」
テーブルの上にぎっしり乗ったお皿たち。お刺身は温まらないように氷を敷いた上、煮物は逆に冷えないように土鍋にと、以前の夏にお腹いっぱい食べたときよりもさらに豪華になっている気がした。
「懐石料理だから本当は順番に出して貰うんだけど、わざと一気に出して貰ったんだ。話が途中で中断しないようにするためにね」
「えっ……?」
結花先生が少し怪訝な顔をする。
「心配しなくていいですよ。きっと、二人にはいい話になると思うので」
「啓太さん、もったいぶらないでください」
そう、きっと私たちには知らされていないことを、陽人先生と啓大さんは知っている。だからこそ今回の旅行が企画されたはずなんだ。
「はいはい。じゃあ、始めるか」
啓太さんと陽人先生がうなずいた。
「10月にそれぞれ、親戚の葬式があって、それぞれ男だけ出ていったのを覚えているか?」
「うん。わざわざ同じ日にどっちもって結花先生と話したのを覚えてる」
そうだった。スマートフォンのメッセージで、そんな偶然があるんだねと、結花先生とずっと会話していたっけ。
「あれさ、行ってみたら同じ斎場だったんだよ」
「ちょっと、それどういうこと?」
「つまり、亡くなったのはお互い共通の親戚だったということだ」
「そんなことってあり?」
えっ……、それって、啓太さんと陽人先生が親戚だったってこと?
結花先生と私の心の中を読んだように、二人が笑った。
「そゆこと。戦争中とその後の混乱でバタバタして、俺たち子どもには知らされていなかったんだけど、それぞれの爺さんが兄弟と言うことが分かってな。うちの方が次男だったから、戦後に長谷川に苗字を変えたんだと。まわりの親戚の証言も一致したよ」
「えっと……、曾お爺さんが同じってことは……、二人が『はとこ』ってことで間違いない?」
結花先生、頭の回転が速い。すぐに紙の上に家系図を書き出していく。
結花先生のお母さんは弁護士さんだし、同じように親族を捜したりする仕事もしているから、そういうことは得意なのかも。
「そういうこと。で、そこに嫁いできた結花と花菜ちゃんは、どういうことになる?」
「え……、どういうことって……」
「……直系ではないけれど……、花菜ちゃんと啓太先生の結婚の結果で、私たちは全員親戚……ってことになっていたわけ?」
結花先生が私の手をギュッと握った。
「そう言って間違いないだろう?」
まさか、そんなことになっていたなんて。
もう話のスケールが大きすぎて、私の頭ではまだ実感がぴんとこないけれど、その発表をするためにこのシークレットツアーが組まれたのだとすれば、十分に納得がいくネタだよね……。