「しかし、あのふたりはよく似てるなぁ」

 結花さんと花菜が出ていったあとのお店の中、陽人さんと一緒に窓から外を見ていた。

 もう食事を終えて2時間近く経っている。お店の中も夕食時間までは暇だからと席を占領させてもらっていた。

 砂浜に続いている足跡の先、二人が穏やかな波打ち際で笑っている姿が見える。

「よく飽きませんね」

「まぁ、今日は暖かいし。それに、結花は昔からああやって海を見ているのが好きな子だ。呼びに行くまでずっと座っていることもあるよ」

 結花さんの言葉を借りると、それは自分をリセットするために必要なことなのだという。

 普段から順調なことばかりではないときや悩んでいたりすると、港や海岸に佇んでいることも珍しくないとのこと。

「花菜ちゃんにそんなところまで似てもらっても困っちゃうけれどな」

「花菜は、結花さんを目標にしてきましたからね。どうしたって似てくると思います」

「そんなに結花を目標にしちゃっていいのか?」

 陽人さんが苦笑いしている。

 でも一番近くにいる結花さんの魅力というのは、逆に陽人さんにはなかなか気付けないものかもしれない。自分だって、花菜のすべてを知っているかと問われれば答えに困ってしまうだろう。

「それは、きっと僕たちには分からないことかも知れません。花菜はいろいろと結花さんに助けてもらったといつも言っています。髪形も服も習ってきましたからね」

「似てくるわけだ」

「もちろん結花さんの完全なコピーは無理でしょう。でも花菜が自分に足りないものを結花さんから教わって取り入れるというなら、僕は反対はしません」

「まったく、旦那ってことじゃ啓太君の方が上だな。俺は結花に無理させないように、そればかり考えてきてしまったからな」

 それは仕方ないと思う。同じような高校という環境下での出会いという言葉であっても、幼なじみという関係があってのスタートだった花菜との再会と、本当に偶然の一生徒と担任の教師の出会いという関係から始まった結花さんと陽人先生。

 自分たちの思いが禁じられているものであること、それでも二人の気持ちが近づいていくことを分かっていながらお互いの距離を保つことは、あの結花さんの素の性格や魅力を前にしたら本当に難しかっただろう。

 放置すれば命も危ないといわれた病気を乗り越えて、高校すら退学してしまった結花さんを偶然に見つけ出し、ふたりの赤い糸を何度も切れてしまいそうになりながら必死で守り抜いた陽人さんにとって、結花さんのことは何よりも大切な存在だということは普段を見ていれば聞かずともわかる。

 そんな結花さんは、ほぼ同年代の俺が見ても本当に素敵な女性だ。花菜が憧れるのも分かる気がしていた。

 きっと、今の魅力が学生当時に開花していたら、花菜とはまた別の立ち位置で相当に人気のある生徒になっていただろうと想像に難くない。