「みんなね、花菜ちゃんやるじゃん!と思ったよ。あなたも立派な先生の仲間入りしてるんだからね」

「そうなんですか?」

「うん。だから、私は花菜ちゃんを担当できてよかった。こんな凄いこと出来ちゃう子を任せてもらえた。私も勉強になったし。なによりも花菜ちゃんの成長が分かって嬉しかったな」

 それって、最高の褒め言葉だと思う。もっと幼い頃ならともかく、高校2年生にもなった時、自分一人ではまだ生きていくことが出来ないことに愕然とした。お父さんがいなくて、お母さんと二人で生きてきたと思っても、お母さんに私はずっと守られていたこと。

 早く大人になりたい。誰かの役に立てるようになりたい。

 幼なじみでもあった啓太さんに、在学中の結婚を許してもらえて、高校の卒業まで見届けてもらえた。

 それだけでも十分なのに、啓太さんも結花先生も、進学を勧めてきたんだ。

 家の都合で今しか出来ないことを諦めて欲しくない。啓太さんは私の担任の先生の時代からそう言ってくれていた。だから私が短大で食育や調理師の勉強をしたいと告げたことにすぐに賛成してくれた。

 そして、自然な流れでお仕事も結花先生が導いてくれたんだ。

 だから、早くふたりに恩返しがしたいと思っていた。

 雲雀ちゃんの卒園という事実が、私が思ってきたことをようやく形にできた瞬間だった。



「結花先生、私にもできることが増えてきたんですね……」

「そう、花菜ちゃんにしか出来ないことがあるのだから」

 啓太さんに、私にしか出来ないこと……。

 うん、分かってる。


 『そのこと』は、他の人にはあまり話していない。言葉としては簡単だけど、その中身としては凄く繊細なことだから。


「さて、そろそろ出ましょう。明日もまたあるんだしね」

「はい」

 体を拭いて、浴衣を着て、お互いの髪をブローしていく。

「結花先生、私にできるでしょうか?」

「それはちょうど同い年だった私も同じだったよ。不安もいっぱいあったし、泣いたこともあったけど、諦めなくてよかったって思ってるから」

「うん……」

 廊下で啓太さんと陽人先生にばったり出会った。

「ずいぶんゆっくりだったな」

「女の子のお風呂の中での会話は長いのよ。ねっ?」

 四人で廊下を進み、お部屋の前に着いた。

「明日はのんびりしましょう」

 朝食の時間を確かめて、私たちはそれぞれのお部屋に入った。




 お部屋のテーブルの上に、おにぎりと卵焼き、お新香が届けられていた。

「笑っちゃいます。クリスマスイブのお夕食がこれだなんて」

 焼き鮭と昆布のおにぎりが一人ふたつずつ。疲れたときに夕食としてコンビニで買ってきて食べているのと同じような景色に笑みがこぼれてしまう。

「明日はちゃんとしたごはん出るから許してくれ」

「許すだなんて……。逆なのに……」

 そう、本当に許して欲しいのは私の方なんだ……。

「啓太さん、ごめんね……」

「花菜ちゃん、どうした?!」

「間に合わなかったの……。ごめんなさい……」

 浴衣の帯が(ほど)けるのも構わず、私は啓太さんの腕の中に崩れ落ちた。