「私も帰ろうか」

 董子が少し深刻な声を出すと、母がふふっと笑った。

「どうしたの、董子まで。そんなに心配しなくても大丈夫よ。仕事あるでしょう」

「金曜がちょうど休みなの。だから、木曜の仕事おわりにそっちに帰れば家のことを手伝えるでしょう」

「そんなこと言って、たまに帰ってきても、なにもせずに部屋で寝てるじゃない」

 母に揶揄うように笑われて、スマホにあてた董子の耳がちょっと熱くなった。

「そ、そうだけど……! お母さんが病院のときくらい、私だって――」

 むっと唇を尖らせながら言い訳する董子の耳に、母のクスクス笑う声が聞こえてくる。こんなときですら、母にとって董子は”子ども”なのだ。

「もういい――」
「木曜日の夜はうちで食べるの?」

 不貞腐れて通話を切ろうとした董子の耳に、母が訊ねてくる。

「食べる。帰ってもいいなら……」

 ぼそっと捻くれた言い方をする董子に、母は「何言ってるのよ」と呆れ声で笑った。

「帰ってきちゃダメなんてこと、あるわけないじゃない。いつでも好きなときに帰ってきなさい」

 あたりまえみたいに笑う母の言葉に、胸がぎゅっとした。

 母のことが心配で家に帰ろうと思っていたのに、心配されているのは結局董子のほうで。これでは、本末転倒だ。