「おいしい……」

 ずずーっ、とまた豚汁を啜ると、おおざっぱな性格だった董子の母らしい、ざっくりと大きめに切られた具材を口に運ぶ。

 豚肉、さつまいも、大根、人参、玉ねぎ、ゴボウ、きのこ、こんにゃく、白ネギ。家で食べるときには、ひとつひとつに具材まで意識したことはなかったけれど、なにからなにまで、董子の母の豚汁と同じだ。

 お椀の中身を半分ほど味わってから、次に肉じゃがにも箸を伸ばす。

(きっとこれも間違いなく、なつかしい味がするんだろう)

 心の準備を整えてから、ごろんとしたじゃがいもを箸で半分に割る。

 ほかほかの湯気とともにほのかに漂ってくる甘い匂い。口に入れると、醤油と砂糖のよく浸みた甘くて濃い味がぶわっと一気に広がっていく。

 濃いめの味付けで焚かれた肉じゃがは、たまにちょっとだけ野菜の芯が残っているところまで母の料理らしすぎて。途中から無言で食べていた董子の目から、気付けばぽたぽたと涙が落ちていた。

 『お客様の思い出の味』を提供するなんて。店主は、いったいどんな魔法を使ったのだろう。