黒藤を何と受け取ったのかはわからないが、黒い猫は黒藤の手の方へやってきた。
「さ、ご主人のところへいきな」
――魂を、強制的に黄泉へおくる。黒猫は、あの日の桃子のように光に包まれていく。
――死は、否応なしで強制的だ。納得して逝くことが出来る魂は数少ない。
だから、というわけではないけど、黒藤も対象の心残りを総て消しておくってやれるとは思っていない。むしろ出来ないと思っている。
でも白桜は違う。
出来るだけ、全ての魂を『救いたい』と思っている。
人間だろうが、動物だろうが、妖異だろうが、霊だろうが。
白桜の考え方は否定しない。でも、黒藤には理解出来ない。どうしてそんな風に考えるか。
そういう『人間らしさ』が、黒藤にはわからない。
黒猫は、光の粒となって消えた。
黄泉で飼い主と逢えるかなんてわからない。でも、黒藤には『おくる』以外に出来ることがない。
……死に対して涙を持たない黒藤は。
……だから、少しだけ未来に、誰かが救われていることだけは、願うようにしている。
たとえば、桃子のように。
白桜は光の陰陽師であり、月の陰陽師だ。
月は女性の象徴。いずれ、その意味も気づかれるだろう。白桜がずっと男で通す未来はない。
ただ、そのとき周りはどうするか……。白桜を御門の当主のままとするか、否(いな)やを唱えるか……。
黒藤は、白桜さえ無事でいてくれたらそれでいい。
例え、未来(さき)の白桜の隣にいるのが自身ではなくても。
――白、お前だけは、絶対護るから。俺が、俺の総てをかけて。
だからずっと、お前は『お前』として咲いていてくれ。
月の陰陽師、月御門白桜――――。
完