「どうしてこんなに任せてくれるようになったんですか?」


バックヤードで2人きりになったタイミングで尋ねると、藤野店長は段ボールに本を詰めながら、あっけらかんと言い切った。


「ただレジ打ったり品出ししてるだけじゃ、つまんないでしょ?」

「まあ、そうですけど」

「前から時期を見てお願いしようと考えてたんだ、3人が仲良さそうにしてたから、今だと思ってね」

「前から?」

「そう。3人を採用した時から」

なるほど。藤野店長は(はか)っていたんだ。面接時に僕の仕事を興味深いように訊いてくれたのは、こういう仕事を頼みたかったからか。

一ノ瀬さんを採用したのも、多分理由はそれ。

一ノ瀬さんがアルバイトの面接に来た時、藤野店長は面接が終わると「さっきの子、写真が趣味なんだって」とわざわざ興奮気味に言ってきた。

その前にも何人かの人間が面接に訪れていたが、藤野店長は結局一ノ瀬さんを選んだ。


「どうせ働くんなら、面白いことしたいじゃん」


その言葉に全てが含まれている。


「面白いって、そんな適当な」


僕が(あき)れながらそう言うと、藤野店長は自身の哲学を語り始めた。


「大事なことだよ。君達の特技を発揮してもらってお店が面白くなったら、お客さんも喜んでくれる。それに僕も楽しいし。本部の指示ばかりの仕事やお店なんて、つまんないじゃん」


当たり前だが、新刊書店は利益を出すために売れる本を並べなければならない。

出版社や取次、このお店を指揮している本部が売上データや世間の流行や話題を拾い上げ、どの本を店頭に並べるかを決定する。そして送られてきた商品をもとに現場の僕達が売り場を作る。

そういう仕組みであるから、それなりの規模のお店では同じような商品展開であるため、つまらないと言うお客さんもいるが、これはもう利益を生み出す仕組みであるため仕方がない。

ただ、お店によっては売り場の一部分を現場の人間が自由に売り場を作れる余力が残されていることもある。


「このお店を僕らで面白くしろと」

「そう」


藤野店長はにっこりと笑った。