作業自体は二週間で慣れろ。黙々と作業をするな。改善点を見つけて行動しろ。
 
配属先である生産ブロックの先輩社員から、耳にたこができるほどそう聞かされた。

僕は生産ブロックの保全班に配属された。保全班というのはオートメーション化された生産ラインで突発的に発生するトラブルに対処したり、あらかじめトラブルが起きないように設備のメンテナンスをしたりする班だ。

忙しない生産ラインでは、昼夜を問わず家電製品や自動車に埋め込まれる部品が生み出されている。もし数分でも設備が止まろうものなら、瞬く間に僕らの給料では(まかな)いきれないほどの赤字を生み出すことになる。

そんな重要なところについ最近まで学生だった僕らを配属するのは如何がなものかと思ったが、新人はまずこの班で仕事を叩き込むことを通例としていると班長に教えられてから、一応は育ててくれようとしているんだと無理やり解釈した。

右も左もわからない状態で配属された僕達は、時代錯誤なスパルタ教育に辟易(へきえき)しながらも、徐々にそれが社会だと錯覚しながらなんとか喰らい付く日々を送っていた。

保全班には10人ほどの同期が配属されたが、3ヶ月も経たないところで半数が姿を消した。

居なくなったメンバーに僕が含まれていないのは、館山水斗(たてやまみずと)という気が合う同僚に恵まれたのと、いい意味で貪欲さを持っていなかったからだと思う。